高市新内閣、支持率71%で発足:「タカ派」の裏に隠された「安全運転」戦略

2025年10月21日、国会において自民党の高市早苗総裁が第104代首相に指名され、日本維新の会が「閣外協力」する高市連立内閣が正式に発足しました。読売新聞社が実施した世論調査(21、22日)によれば、内閣支持率は71%という高い数字を記録し、発足時の石破内閣の51%を大きく上回る結果となりました。しかし、これまでの高市氏の言動から「極端な右傾化」を懸念する声も聞かれる中、この高支持率の裏にはどのような内閣運営の意図が隠されているのでしょうか。新内閣の顔ぶれから、その評価と今後の課題を探ります。

「タカ派」高市氏の誕生と懸念された「極端な右傾化」

高市氏が自民党新総裁に就任し、高市政権の誕生が現実味を帯びてきた当初、政界内外からは「極端な右傾化」への危惧が盛んに叫ばれていました。高市氏と言えば、選択的夫婦別姓制度への慎重な姿勢や、強硬な外国人政策を訴える「タカ派」として知られ、主に保守強硬層からの熱い支持を集めてきました。そのため、新政権では高市氏個人の思想や政策が前面に押し出される「高市カラー」が色濃く反映されるだろうという見方が大半を占めていました。

2025年10月21日、首相官邸で就任記念撮影に応じる高市早苗新首相と第104代高市連立内閣の閣僚たち2025年10月21日、首相官邸で就任記念撮影に応じる高市早苗新首相と第104代高市連立内閣の閣僚たち

71%の高支持率で船出:「安全運転そろり出航内閣」の実像

しかし、実際に組閣の蓋を開けてみると、当初の予想とは異なり、高市カラーが前面に出るというよりは、非常に「安全運転」を意識した布陣となりました。総裁選を戦った小泉進次郎氏を防衛相、林芳正氏を総務相、茂木敏充氏を外相というように、主要な対立候補を重要閣僚に起用。さらに、経済産業相に就任した赤沢亮正氏を含め、4名が石破茂前政権からの横滑り人事であり、初入閣の閣僚10名もそのほとんどが副大臣経験者で占められました。

元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏は、この高市新内閣を「安全運転そろり出航内閣」と評しています。久米氏によれば、「組閣から見えてくるのは、自身のカラーを出すことよりも、国会を安全に乗り切りたいという強い気持ちが色濃いということです。政権が短命に終わらないよう、つまずきを避けたいという意図がうかがえます」。党役員人事では麻生太郎副総裁の影響が強く見られたものの、閣僚人事においては旧派閥など各方面に目を配りながら、絶妙なバランスを取ったと指摘。派手さはないものの、世間には堅実で現実的な印象を与えようとした意図が読み取れます。

適材適所と「裏金問題」への配慮

今回の組閣では、元大蔵官僚の片山さつき氏を財務相に、長らく公明党が担ってきた国土交通相には建設畑出身の金子恭之氏を起用するなど、「適材適所」の人事も目立ちました。特筆すべきは、自民党の裏金問題に関与した議員を閣僚から一切外した点です。

「日本人ファースト」政策を掲げる高市政権で外国人問題を担当するとされる赤沢亮正経済産業相「日本人ファースト」政策を掲げる高市政権で外国人問題を担当するとされる赤沢亮正経済産業相

高市氏自身は裏金問題について「人事に影響はない」との考えを示していた一方で、久米氏によると、実際には「政治とカネ」の問題に対する世間の声をかなり気にしていたと漏れ伝わっているとのことです。裏金問題に関与した議員を閣僚に起用すれば、野党からの猛反発は必至であり、国会審議がその話題に集中すれば、通したい法案も通せなくなる事態を招きかねません。このようなリスクを回避し、野党に粗を突かれないよう、表立って批判の的にならないような人事を意識した、「なるべく目立たず、たたかれない、弱みを見せない」という堅実な布陣であると言えるでしょう。

副大臣・政務官人事に残る火種

しかし、組閣翌日の22日には、裏金問題に関与した旧安倍派所属の議員7名が副大臣・政務官に起用されるという動きがありました。この人事に対しては、今後野党側が批判を強めることが予想されており、高市政権がこの火種にどのように対応していくのか、その手腕が問われることになります。

結論

高市早苗新内閣は、71%という高い支持率で船出を果たしました。しかし、その組閣は高市氏の「タカ派」イメージとは裏腹に、極めて「安全運転」かつ「現実的」な戦略に基づいていたことが明らかになりました。国会運営の安定化、各方面へのバランス配慮、そして裏金問題への慎重な対応など、堅実な政権運営を目指す姿勢が随所に見て取れます。一方で、副大臣・政務官人事における裏金問題関連議員の起用は、今後の政権運営における潜在的なリスクとして残されており、高支持率を維持しつつこれらの課題を乗り越えていけるかどうかが、高市政権の真価が問われることになるでしょう。


参考文献