中国の習近平国家主席は、天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議において、米国を念頭に「陣営対立といじめ行為に反対する」と強く批判しました。同時に、中国主導によるSCO開発銀行の設立を提案し、グローバルサウス諸国間の安全保障および経済分野での協力強化を促しています。この動きは、主要7カ国(G7)に対抗し、より「平等で秩序正しい多極化された世界」を構築しようとする中国の戦略的な試みとして注目されます。
中国、米国の「陣営対立といじめ行為」を批判しSCO開発銀行を提唱
SCO議長国を代表して習近平主席は、天津での会議で「平等で秩序正しい多極化された世界」を提唱し、加盟国の安全保障と経済協力を支援するための「SCO開発銀行の早期設立」を強調しました。これは、既存の国際金融システムにおける西側諸国の影響力に対抗する明確な意図を示しています。
習近平主席の主要発言と経済的支援
演説の中で、習主席は年内に20億元(約412億円)の無償援助を実施し、今後3年間で銀行連合体会員銀行に100億元の新規貸付を行うことを発表しました。さらに、中国が加盟国に840億ドル(約12兆円)を投資し、加盟国と中国の二国間貿易規模が5000億ドルを超えたと強調しました。これらの具体的な数値は、SCO内部での経済的結束を強固にする中国の強い意思を裏付けています。
G7に対抗する経済連携強化の動き
上海に本部を置くBRICS開発銀行に続き、SCOでも経済連帯を強化する中国の動きは、第2の経済大国としての存在感を高め、G7に対抗する新たな国際秩序を形成しようとする試みとみられています。これにより、グローバルサウスの国々が西側中心の経済システムに過度に依存することなく、自立的な発展を遂げるための選択肢を提供することが期待されます。
ロシア・インドの支持と背景
中国が提案したSCO開発銀行の設立は、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相からも積極的に支持されました。両国の指導者は、それぞれの国が抱える国際的な課題や経済的利益の観点から、この構想に大きな期待を寄せています。
SCO首脳会議のため天津に到着し、同じ車で会談場へ向かうインドのモディ首相(左)とロシアのプーチン大統領。両首脳は中国が提唱するSCO開発銀行の設立を支持した。
プーチン大統領の金融制裁回避への期待
プーチン大統領は、「(SCO)加盟国の共同債券発行、独自の決済と預金インフラ構築、投資銀行設立を支持する。外部環境の変動から保護するだろう」と発言しました。これは、米国をはじめとする西側諸国による金融制裁を回避するための代替決済システムの開発を意味し、ロシアにとって経済的な安定を確保する重要な手段となり得ます。
モディ首相が語るSCOのビジョン
モディ首相は、「SCOのビジョンは安全保障(Security)、連帯(Connectivity)、機会(Opportunity)の3つの柱で構成されている。強力な連帯を通じて貿易が活性化し信頼と発展の門を開くだろう」と強調し、SCOが提供する多面的な協力の可能性を訴えました。インドもまた、経済成長と地域安全保障の観点から、SCOの枠組みを重視しています。
「多極化された世界」への呼びかけと天津宣言の採択
習近平主席は、21カ国首脳が参加したSCOプラス拡大首脳会議で、「冷戦的思考方式、覇権主義、保護貿易主義の影が残っており、新たな脅威と挑戦は拡大を続けている。さらに正しく合理的な世界的ガバナンスシステムを構築しよう」と述べ、国際社会に向けて多極化された世界の重要性を訴えました。
天津宣言の主要内容:イランと核拡散防止条約
SCO会議はこの日、「SCO未来10年(2026~2035年)発展計画」という題名の天津宣言を採択し閉幕しました。天津宣言は、6月のイスラエルと米国によるイランに対する軍事空爆を強く糾弾しています。また、核拡散防止条約(NPT)に関して、「平和的目的に向けた原子力の研究、生産と利用分野で譲れない権利を強調する。加盟国はこの分野で一方的な制限措置は国際法に反し容認できないということを強調した」とし、西欧主導の国際制裁に反対の意を明確にしました。さらに、宣言はオブザーバーと対話パートナーに二分化されていたSCO拡大加盟国を「SCOパートナー」という単一の地位に統合することを決定しました。
言及されなかった国際懸案
一方で、天津宣言には北朝鮮の核問題やウクライナ戦争といった国際的な主要懸案は盛り込まれませんでした。これは、加盟国間の意見の相違や、特定の地域問題に深く踏み込むことを避けるSCOの方針を示している可能性があります。
上海協力機構首脳会議での中国の提案と天津宣言は、世界が直面する地政学的な変化と多極化への移行を鮮明に示しています。米国への批判とSCO開発銀行の設立提案は、グローバルサウスを中心とした新たな国際経済・安全保障秩序の構築を目指す中国の強い意志を反映するものです。ロシアとインドの支持も得て、SCOはG7に対抗する重要な勢力としての地位を固めつつあり、今後の国際情勢に大きな影響を与えることが予想されます。