高市早苗総理の台湾有事を巡る「存立危機事態」発言が、日中関係の悪化を招き、日本国内外で波紋を広げています。経済誌プレジデントの元編集長である小倉健一氏は、この発言が「日本の国益を傷つける凶器」と化していると厳しく指摘。その根底には、外交、安全保障、法律、経済に対する恐るべき「無知」と「無能」が横たわっていると警鐘を鳴らしています。政治リーダーの言葉が持つ重みを改めて問われる事態となっています。
高市総理の発言が国益を損なう「凶器」となる理由
衆議院予算委員会での高市総理の発言は、台湾周辺で中国軍が海上封鎖を行った場合、それが「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」というものでした。さらに、「米軍が来援し、それを防ぐために武力行使が行われる」という具体的なシナリオまで言及したとされます。一見、毅然とした態度を示す発言にも見えますが、小倉氏はこれを単なる失言ではなく、「国家運営がバグを起こしている証拠」だと断じています。
政治家の言葉は、とりわけ総理大臣の言葉は、それ自体が外交であり、国益を左右する重要な役割を担います。しかし、高市総理の発言は、日本の国益を守るどころか、国際関係を複雑化させ、むしろ傷つける可能性を秘めていると指摘されています。
高市早苗総理の台湾有事に関する発言を報じるニュース記事のイメージ
アメリカの「戦略的曖昧さ」を無視した危険な前提
小倉氏が指摘する高市総理のシナリオの最大の欠陥は、「アメリカ軍が必ず助けに来る」という根拠のない前提に基づいている点です。高市総理は「米軍が来援する」と断言しましたが、現在の国際情勢、特にアメリカの政治状況を考慮すれば、この見方がいかに危うい空想であるかが浮き彫りになります。
アメリカ、特にトランプ政権の外交方針に見られる「アメリカ・ファースト」の原則は、自国の利益にならない戦争への不介入、同盟国への自衛の要求、そして何よりも「コスト」を嫌う姿勢を明確に示しています。中国という大国との軍事衝突は、アメリカにとっても甚大な被害をもたらすことは避けられません。そのため、アメリカはこれまで「台湾を守るかどうかはあいまいにしておく(戦略的曖昧さ)」という高度な外交テクニックを駆使し、中国を牽制してきました。このデリケートなバランスの上に成り立つ国際関係を軽視した発言は、日本外交にとって大きなリスクとなり得ます。
高市総理の発言は、このアメリカの「戦略的曖昧さ」という重要な外交カードを無視し、一方的な期待を表明することで、かえって日本の安全保障上の立場を不利にする可能性をはらんでいます。国際社会における自国の立ち位置と主要同盟国の外交戦略を深く理解せずに行われる発言は、国益を損ねる「凶器」となりかねません。
結論
高市総理の台湾有事を巡る「存立危機事態」発言は、日本の国家運営における深い知識不足と判断ミスを露呈したと、小倉健一氏は手厳しく批判しています。国際政治の複雑な状況、特にアメリカの外交方針や「戦略的曖昧さ」を理解せずに出された言葉は、日本の国益を損ない、日中関係を不必要に悪化させるリスクを高めます。国家のリーダーには、感情論を排し、冷静かつ論理的な国際情勢分析に基づいた慎重な言動が求められます。





