ふるさと納税ワンストップ特例の落とし穴:医療費控除でまさかの確定申告が必要に?税理士が解説

ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすることで魅力的な返礼品が受け取れる人気の制度です。特に会社員にとって、寄付後の確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」は非常に便利な仕組みとして広く利用されています。しかし、その手軽さゆえに見落とされがちなルールも存在し、予期せぬ税負担が発生するリスクも潜んでいます。本記事では、Aさん夫婦の事例を通して、ふるさと納税におけるワンストップ特例制度の注意点について、木戸真智子税理士が詳しく解説します。

会社員夫婦が満喫するふるさと納税とワンストップ特例

23区に住む会社員のAさん夫婦は、共働きで毎年ふるさと納税を賢く楽しんでいました。妻は家計を助けるための食材や日用品を、Aさんは普段なかなか手に入らない珍しいグルメを返礼品として選び、夫婦それぞれが返礼品選びを満喫していました。

妻はAさんの年収から寄付できる上限額を事前にしっかり調査し、高級牛肉やカニが実質2,000円の負担で手に入ることに魅力を感じ、限度額ギリギリまで寄付を行っていました。そして、確定申告の手間を省くため、手軽なワンストップ特例制度を毎年利用しています。

本来、寄付金控除を受けるには確定申告が必要ですが、ふるさと納税のワンストップ特例制度を使えば、会社で年末調整を受けている会社員は確定申告をせずに控除の恩恵を受けることができます。これはAさん夫婦にとって大きなメリットでした。申請は「寄付金税額控除に係る申告特例申請書」に必要事項を記入し、寄付した自治体に送るだけで完了します。ただし、この制度が利用できるのは寄付先が5自治体までという制限があるため、夫婦は寄付額を調整し、毎年5自治体の枠内におさめていました。

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予期せぬ入院と医療費の発生

その年の秋ごろ、寄付額が上限に近づいていた矢先に、Aさんの身に予期せぬ出来事が起こりました。Aさんは体調を崩し、人生で初めて入院することになってしまったのです。これまで健康的な食生活と運動を心がけ、健康には自信を持っていたAさん夫婦にとって、この入院は「もう50だからか」とAさんに大きなショックを与え、それは妻も同じでした。幸い、入院生活は3週間程度で済みましたが、医療費が高額になり、家計に思わぬ出費が発生しました。

その後、Aさんの体調も回復し、会社に復帰した際、会社の同僚から有益な情報を得ることになります。

ワンストップ特例が無効になる「隠れた落とし穴」とは?

同僚からAさんが得た情報とは、医療費控除を受けるために確定申告が必要になった場合、ふるさと納税のワンストップ特例制度が自動的に無効になってしまうというものでした。これは、医療費控除の適用を受けるためには、全ての所得と控除をまとめて税務署に申告する「確定申告」が必須となるためです。

Aさん夫婦はワンストップ特例制度を利用することで、確定申告の手間を省いていましたが、高額な医療費が発生したことで医療費控除の対象となりました。この医療費控除を申請すると、既に申請済みのふるさと納税のワンストップ特例は全て無効となり、改めて確定申告書にふるさと納税の寄付金控除も記載し直す必要が生じます。もし、医療費控除のためだけに確定申告を行い、ふるさと納税の寄付金控除を改めて申告しなければ、ふるさと納税による税額控除が適用されず、実質的な自己負担額が2,000円ではなくなってしまうという大きな落とし穴があるのです。

専門家が語る、賢いふるさと納税の活用法

税理士の木戸真智子氏によると、このようなケースは会社員によく見られる見落としだと言います。ワンストップ特例制度は非常に便利ですが、医療費控除の他にも、住宅ローン控除の初回申請、副業による所得があった場合など、何らかの理由で確定申告が必要になった場合、ワンストップ特例は無効となることを理解しておく必要があります。

このような状況を避けるためには、以下のポイントを意識することが重要です。

  • 年末に改めて確認する: 年末に近づいたら、その年の医療費、副業収入、その他確定申告が必要になる可能性のある事由がないか、改めて確認しましょう。
  • 確定申告の準備をする: もし確定申告が必要になる場合は、ふるさと納税の寄付金受領証明書を全て揃え、確定申告で寄付金控除も同時に申告する準備をしましょう。
  • 専門家への相談: 不安な点がある場合は、税務署や税理士などの専門家に相談し、正確な情報を得るようにしましょう。

ふるさと納税は、地域貢献と返礼品を楽しめる素晴らしい制度ですが、予期せぬ税負担を避けるためにも、そのルールを正しく理解し、計画的に活用することが大切です。

結論

ふるさと納税のワンストップ特例制度は会社員にとって非常に便利な制度ですが、医療費控除など他の理由で確定申告が必要になった場合、特例が無効となり、全ての寄付金を確定申告書に記載し直す必要があるという「落とし穴」が存在します。この点を理解せず確定申告を進めると、ふるさと納税による控除が受けられず、予期せぬ税負担が発生する可能性があります。税理士のアドバイスを参考に、ご自身の状況を常に把握し、賢くふるさと納税を活用しましょう。

参考資料

  • 総務省 ふるさと納税ポータルサイト
  • 国税庁 確定申告に関する情報
  • 木戸真智子税理士による税務解説(※本記事は実際の事例内容を一部改変しています)