渋谷道玄坂、急増する「ワンルームホテル」の実態:マンションの一室が宿泊施設に

渋谷道玄坂に位置する、一見普通の分譲マンション。実際には複数のワンルームホテルとして利用されている実態を示す建物外観。渋谷道玄坂に位置する、一見普通の分譲マンション。実際には複数のワンルームホテルとして利用されている実態を示す建物外観。

週末の渋谷・道玄坂の歓楽街。巨大なスーツケースを引く外国人家族連れが、目的地を探してさまよう姿が目につく。チェックインするホテルを見つけられずに迷っているのだろうか。その家族連れが足を踏み入れたのは、大通りから一本入った場所にある、ごく普通の分譲マンションのエントランスだった。現在、渋谷ではこうした光景が珍しくなく、マンションの一室をホテルとして貸し出す業者が急増しているという。渋谷で3年以上のホテル経営経験を持つA氏が語る、驚くべき実態とは。

渋谷に急増する「ワンルームホテル」の実態

近年、渋谷区内の宿泊施設の風景は大きく変貌を遂げている。特に顕著なのが、従来のホテルとは異なる「ワンルームホテル」と呼ばれる形態の急増だ。

旅館業施設リストが示す驚きの数字

A氏が提示したのは、渋谷区保健所が発行する「旅館業施設リスト」と題された20ページを超える資料だ。これは、渋谷区内で「旅館ホテル営業」の許可を得ている施設の一覧であり、特別な内部資料ではなく、区のホームページから誰でも入手可能な情報だという。リストにはNO.1からNO.460までの宿泊施設が記載されているが、そのうち5軒はすでに廃業しており、実際に営業中の施設は455軒に上る。

特筆すべきは、この455軒のうち、一般的な社会通念で「ホテル」と認識されるような、受付カウンターやロビーを備えた施設はわずか95軒に過ぎないという点だ。残りの360軒、実に約8割がマンションの一室をホテルとして届け出た「ワンルームホテル」なのである。この数字は、渋谷区における宿泊施設の多様化、あるいは変容の速度を如実に物語っている。

一つのマンションに複数の「ホテル」が乱立

さらに驚くべきは、同じ一つのマンションの建物内に、複数の異なる宿泊施設が営業許可を得て存在しているケースだ。A氏が例として挙げたのは、道玄坂に近い百軒店(ひゃっけんだな)エリアにある、総戸数115の分譲マンションである。

この一棟のマンションには、なんと25軒もの「ホテル」が入居しているという。それぞれの部屋が個別のホテルとして、一つ一つ独立した営業許可が下りている状態だ。これらのホテル名を大手宿泊予約サイトで検索すると、実際にbooking.comなどで登録されている施設も確認できる。中には「三ツ星ホテル」として登録されているものも存在し、その存在は決して裏稼業的なものではないことが示唆される。

経済的な魅力と外国人旅行者からの人気

これらの「ワンルームホテル」の相場は、一泊あたり約3万円程度が多い。ダブルベッド一つにソファベッドが付いているタイプが多く、最大で3人まで宿泊可能だ。この料金を3人で割ると、一人あたりの宿泊代は約1万円となり、通常のホテルと比較してかなり割安になる。

この低価格設定が、予算を抑えたい外国人旅行者から絶大な人気を集めている主な理由だ。特に、団体旅行ではなく個人旅行で日本を訪れる外国人にとって、費用を抑えつつ利便性の高い渋谷という立地は大きな魅力となっている。結果として、マンションの一室が実質的な宿泊施設として機能し、区内の宿泊事情に新たな潮流を生み出している。

結論

渋谷の道玄坂エリアで急速に増加している「ワンルームホテル」は、単なる宿泊形態の多様化に留まらない、都市の居住環境や旅館業のあり方自体に問いを投げかける現象である。渋谷区保健所が公開する情報からもその規模の大きさが明らかになり、一つのマンション内に多数の「ホテル」が共存する異例の状況が、外国人観光客の需要を背景に定着しつつある。この動向は、今後も渋谷の都市機能や住民生活、そして観光産業に影響を与え続けるだろう。

参考文献

  • Yahoo!ニュース (元記事: デイリー新潮) 「道玄坂エリアにも存在する「ワンルームホテル」」 (最終閲覧日: 2024年X月X日)