アフリカ開発会議(TICAD)宮中茶会:女性皇族の和装に息づく「琳派の接遇」の美学

アフリカ開発会議(TICAD)に招かれた各国首脳夫妻らを迎え、皇居・宮殿で催された宮中茶会は、日本の伝統と洗練されたもてなしの精神が光る場となりました。この特別な機会に、常陸宮妃華子さまをはじめとする女性皇族方は、涼やかな和装で臨まれ、海外からの賓客に対し、日本の伝統技術の粋を集めた「琳派の接遇」を体現されました。その優雅な装いは、単なる衣服に留まらず、深い文化的なメッセージと温かい歓迎の意を伝えたのです。

TICAD宮中茶会で乾杯する女性皇族方。涼やかな絽の訪問着姿でアフリカ首脳夫妻をもてなす優雅な様子。TICAD宮中茶会で乾杯する女性皇族方。涼やかな絽の訪問着姿でアフリカ首脳夫妻をもてなす優雅な様子。

華子さまが纏う「光琳の水」と遊び心ある絽綴の帯

宮殿「春秋の間」で開催された茶会で、天皇陛下が英語と仏語を交えて乾杯を呼びかけられる中、常陸宮妃華子さまは、クリスタルのグラスを優雅に掲げられました。和装の達人として名高い華子さまがお召しになっていたのは、夏の薄物ながらも金彩の豪華さが目を引く絽の訪問着です。この着物は、元禄文化を代表する絵師、尾形光琳の「紅白梅図屏風」に描かれた水流から着想を得たものとされます。友禅染の上に金の摺箔(すりはく)を施し、肩から裾にかけて大きく流れる金彩の水が表現され、さらに朱や緑、黄、白の刺繍で「光琳の水」が鮮やかに描かれています。「光琳の水」とは、光琳派の特色である水や植物などの自然を装飾的に簡略化し、柔らかく表現する文様様式です。

華子さまの和装の大きな魅力は、その格調高さの中に秘められた、見る人の心を和ませるような遊び心にあります。この日お召しの涼やかな絽綴(ろつづれ)の帯は、象牙色の地に貝やヒトデといった海の生き物が織り出されており、夏の季節感を演出しつつ、さりげないユーモアを添えていました。

信子さまの優美な秋草文様と翡翠色の帯

日本の京友禅の誂えを専門とする「京ごふく二十八」を営む原巨樹氏によれば、寛仁親王妃信子さまは、しっとりと和装を着こなされており、その装いは特に目を引くものでした。信子さまがお召しになっていた訪問着は、撫子や桔梗、葛といった秋の草花が柔らかな色彩で染め上げられた一着です。

原氏が特に称賛したのは、その翡翠(ひすい)色の夏帯です。多彩な箔糸を巧みに織り上げた手の込んだ逸品であり、接遇の場にふさわしい雅やかな趣を醸し出していました。帯からわずかに覗く組紐と翡翠色の玉飾りは、おそらく帯に挟んだ懐中時計の一部であり、白銀に輝く真珠の帯留めと朱色の帯締めが、翡翠色の帯に優美なコントラストを生み出していました。

彬子さまと瑶子さまが伝える秋の風情

三笠宮家の彬子さまもまた、この日は涼やかな絽の訪問着姿で茶会に臨まれました。彬子さまの訪問着には、伸びやかな曲線を描く蔓と紫や白の鉄線(てっせん)の花が肩から裾にかけて優雅に染め上げられています。淡い鳥の子(とりのこ)色の地色に鉄線の紫が美しく映え、蔓の伸びやかさを生かした図案はまさに圧巻だと原氏は評します。

妹の瑶子さまは、空色に秋の七草の一つである薄(すすき)が友禅染で描かれた絽の訪問着をお召しでした。葉には繊細な刺繍が施され、穂には金箔が用いられています。朝焼けか夕焼けを思わせる、うっすらと赤みを帯びた薄の穂は、琳派の美意識に着想を得たものです。白を基調とした絽綴(ろつづれ)の帯は、刺繍を施すなど細部にまでこだわった品で、ゆるやかな曲線の文様は、水面に反射する光のきらめきを表現しているとされます。茶会が開催されたのは8月下旬の残暑厳しい時期でしたが、瑶子さまの装いは秋の訪れを先取りし、青く澄み渡る空と、白や赤みを帯びた薄の穂が風になびく美しい日本の秋の風情を、アフリカ各国からの賓客に伝えたことでしょう。

結びに:伝統と心尽くしが織りなす国際交流

TICAD宮中茶会における女性皇族方の和装は、日本の豊かな伝統文化と、海外からの賓客を心からもてなす深い思いやりを象徴していました。尾形光琳の様式美を取り入れた「琳派の接遇」は、細部にわたる着物や帯の意匠、そしてそれを優雅に着こなす所作の一つ一つに表れていました。このような美意識と専門知識に裏打ちされた装いは、日本の誇るべき伝統技術と文化的な奥行きを世界に伝える、貴重な国際交流の機会となったと言えるでしょう。伝統美を継承しつつ、相手を敬い心尽くす皇室の姿勢は、国際親善において重要な役割を果たし続けています。


参考文献: