親の死後、遺産ゼロの現実に直面する子世代:介護費用と老後資金の盲点

相続は多くの家庭で避けられない問題ですが、親の晩年の介護や入院にかかる費用の実態を正確に把握している子は少ないでしょう。「親は貯蓄があったはず」という思い込みから、遺産分割時に「何も残っていない」という現実に直面し、戸惑うケースが増加しています。これは日本の高齢化社会における深刻な課題です。

多くの日本の子世代は、親が長年の勤労でそれなりの貯蓄や退職金を築いていると信じています。しかし、人生の最終章で必要となる介護や医療の費用は、想像以上に膨大である場合が多く、そのことが相続の場面で大きな誤解と混乱を生んでいます。特に、核家族化が進む現代において、親の晩年の財政状況や医療・介護の実態を子世代が正確に把握しているケースは稀であり、その知識のギャップが予期せぬ事態を引き起こす原因となっています。

親の介護費用や老後資金の現実を示す、積み上げられたお金と通帳親の介護費用や老後資金の現実を示す、積み上げられたお金と通帳

「まさか使い果たしているとは」:松本幸司さんの事例

都内で会社員として働く松本幸司さん(仮名、50歳、年収650万円)は、父・茂さん(享年86)の葬儀後、遺産分割協議で衝撃的な事実を突きつけられました。実家で両親と暮らしてきた妹の典子さん(仮名、58歳)が提示した父の通帳残高は、わずか87万円だったのです。幸司さんは「父は地味な暮らしで浪費家ではなく、退職金もあり貯金は2,000万円ほどあるはず」と強く信じており、妹の話をにわかに信じられませんでした。

親の介護と医療費が資産を蝕む現実

典子さんの詳細な記録により、父・茂さんが要介護3と認定された6年前からの介護費用、度重なる入退院や訪問診療の医療費、さらには7年前に亡くなった母の入院費と葬儀費用まで、全てが貯蓄から捻出されていたことが判明しました。完済から5年しか経っていない住宅ローンや、介護用のリフォームローンも残っていました。日本における高齢者の医療・介護費は年々増加傾向にあり、年金収入だけでは賄いきれないケースが一般的です。典子さんは「父の年金で賄えない分は貯蓄から出し、毎月5万円ずつでも5年で300万円。大きな手術も2度あり、結局ほとんど残らなかった」と説明。幸司さんは通帳や領収書、介護記録を見て、ようやく厳しい現実を受け入れざるを得ませんでした。

親の財産を過信せず、現実的な視点を持つことが重要です。高齢化が進む日本において、このようなケースは今後も増加が予想されます。子世代は、親が元気なうちに老後資金や介護費用についてオープンに話し合い、資産状況を正確に把握する「家族会議」の機会を設けるべきです。事前準備と情報共有こそが、将来の遺産分割時の予期せぬトラブルや家族間の混乱を回避する鍵となるでしょう。

参考資料:
https://news.yahoo.co.jp/articles/fceb7c637e5f258072e67f7d313a584caa863ede