東京と千葉を結ぶ京葉線は、新木場駅の近くで大きくカーブしている光景が見られます。地図で確認すると、この駅で接続している東京臨海高速鉄道りんかい線の方が直線的な線形を描いており、京葉線が東京駅へと向かう区間はまるで分岐線のように見えます。しかし、この形状には深い理由があります。実は、りんかい線として整備された区間の一部は、もともと京葉線の一部として計画・建設が進められていた経緯があるのです。現在の旅客線としての姿からは想像しにくい、京葉線の知られざる歴史がここに関わっています。
京葉線「貨物線」としての壮大な原計画
京葉線は、当初から現在のような旅客輸送を目的とした路線ではありませんでした。その原計画は、川崎市塩浜を起点とし、東京貨物ターミナル駅、現在のお台場、新木場、舞浜、海浜幕張といった地域を経由し、蘇我を経て木更津に至る長大な貨物線として構想されていました。この計画は、同時期に計画されていた武蔵野線や小金線（現在の武蔵野線新松戸〜西船橋間にあたる）と一体となり、東京の郊外を環状に取り巻く貨物鉄道網「東京外環状線」の一部を成すものでした。これは、山手線など都心を走る既存の路線から貨物列車を移転させ、都市内の交通混雑を緩和するという目的があったのです。
京葉線「東京外環状線」構想における当初の貨物線計画地図
計画変更と旅客線化への転換
しかし、時代の流れとともに貨物輸送の需要が減少し、この壮大な「東京外環状線」計画は見直しを余儀なくされました。武蔵野線は、予定されていた新鶴見〜府中本町〜西船橋間が全線開業しましたが、府中本町〜西船橋間は旅客列車も運行する形態となりました。一方、京葉線は、当初計画とは異なり、東京〜新木場〜蘇我間の旅客線として開業することになったのです。計画の一部であった塩浜〜東京貨物ターミナル間は東海道貨物線、蘇我駅から千葉県袖ヶ浦市までの間は京葉臨海鉄道線として、それぞれ別の貨物線として開業しました。
りんかい線：旧京葉線計画の一部を活用
失われた京葉線貨物線計画のうち、東京貨物ターミナル〜新木場間の計画が活用され、旅客線として開業したのが東京臨海高速鉄道りんかい線です。この路線は、当初1995年に開催予定だった「世界都市博覧会」（最終的に中止）へのアクセス手段として整備が進められましたが、現在ではゆりかもめと並び、東京臨海副都心であるお台場エリアへの重要な交通インフラとなっています。なお、りんかい線の東京テレポート〜大崎間は、国鉄時代の京葉線計画とは直接関係なく、りんかい線独自の延伸計画によって実現した区間です。
りんかい線 新木場付近を走行する70-000形車両
今も残る「貨物線」計画の痕跡と未来
りんかい線の建設が始まった時点では、もはや京葉線の貨物線計画は中止されていましたが、その計画に基づいて建設された一部の構造物は既に完成していました。りんかい線の建設に際しては、途中駅の構築などで一部作り直された箇所はあるものの、当初の貨物線計画時代のトンネルなどの構造物がそのまま流用されている区間も存在します。
さらに、りんかい線の車両基地は東京貨物ターミナル駅に隣接して設けられており、基地へのアプローチ線は貨物線計画時代に建設されたトンネルを再利用しています。現在、このトンネルを旅客列車が営業運転で通過することはありません。しかし、JR東日本が建設を進めている「（仮称）羽田空港アクセス線」の構想には、りんかい線を経由して京葉線方面へ直通するルートが含まれています。もしこのルートが実現すれば、当初の京葉線貨物線計画で想定されていた経路の一部を、営業列車が走行することになるのです。
結局、新木場付近の京葉線のカーブは、京葉線が当初目指した東京外環状貨物線計画の名残であり、りんかい線はその計画の断片を活用して生まれた路線と言えます。そして、将来的な鉄道路線網の発展により、再び当初の計画に近い形で列車が走る可能性も生まれています。
