将棋界に新風:奨励会で史上初「四段」4人同時昇段、新世代の旗手たち

2025年9月6日、将棋界に歴史的な瞬間が訪れました。東京都渋谷区の将棋会館で行われた第77回奨励会三段リーグ戦最終日において、岩村凜太朗三段(19)、生垣寛人三段(22)の2名が最終成績上位2位で四段昇段を決めました。さらに、片山史龍三段(21)と山下数毅三段(17)も、それぞれ「次点2回」の規定によりフリークラス編入での四段昇段を達成。これにより、奨励会史上初となる4人同時のプロ入りが実現し、将棋界に新たな才能が同時期に加わることとなりました。この快挙は、今後の将棋界の動向を占う上で非常に注目されています。

史上初の快挙:将棋奨励会で四段4人同時昇段

奨励会三段リーグは、プロ棋士への登竜門として知られ、若き棋士たちが厳しい戦いを繰り広げる場です。通常、上位2名が四段に昇段し、プロ入りとなります。しかし、今回はそれに加えて、リーグ戦で惜しくも昇段を逃したものの「次点」を2回獲得した者がフリークラスとしてプロ入りできるという規定が適用されました。片山三段は今回で2回目の次点、山下三段は竜王戦5組ランキング戦決勝進出という特例措置による2回目の次点を獲得し、この歴史的な同時昇段の一員となりました。

新四段となった4名はいずれも、現在の将棋界の第一人者である藤井聡太名人(23)よりも年下の若手棋士です。しかし、「目標とする棋士は」という質問に対し、彼らは藤井名人の名を直接挙げることはありませんでした。これは、藤井名人の存在が「雲の上の存在」であると感じる彼らの正直な気持ちの表れと言えるでしょう。各々が独自の道を切り開き、自分自身の将棋を追求していく姿勢が垣間見えます。

新四段たちの横顔と将棋への情熱

岩村凜太朗新四段:詰め将棋の名手、変幻自在な将棋へ

東京都練馬区出身の岩村凜太朗新四段は、飯塚祐紀八段門下です。2023年には詰め将棋の優秀作を表彰する「看寿賞」を受賞するなど、詰め将棋作りの名手としても知られています。プロ入りが決まった瞬間、研究仲間である藤本渚六段、斎藤明日斗六段、吉池隆真四段からの祝福を受け、喜びがこみ上げてきたといいます。

三段リーグに入るまでは三間飛車一筋だった岩村新四段ですが、勝ち星が伸び悩んだことから、今期は居飛車と振り飛車の両方を取り入れた複雑な指し方に挑戦。「それがいい方向にいった」と語り、今後は「どちらを指すか楽しみにしてほしい」と、変幻自在な将棋への抱負を述べました。

生垣寛人新四段:振り飛車復権を誓う

神戸市出身の生垣寛人新四段は、井上慶太九段門下です。午前の対局に勝ち、さらに午後の対局にも勝利して3位以内が確定。ライバルが敗れて逆転昇段したことを知り、「今日は上がれると思っていなかったので、ほっとした気持ちです」と安堵の表情を見せました。

AI(人工知能)の評価では居飛車に比べて不利とされる振り飛車を得意とする生垣新四段。「人間特有の将棋で、新しい振り飛車の形を模索していきたい」と、振り飛車の復権を強く掲げています。趣味は旅行で、琵琶湖一周サイクリングの経験もあるという、多才な一面も持ち合わせています。

片山史龍新四段:苦難乗り越え、伊藤匠叡王を目標に

東京都江東区出身の片山史龍新四段も、岩村新四段と同じ飯塚八段門下です。今期のリーグ後半は岩村新四段と二人で昇段争いをリードする展開となり、「一緒に上がれたらいいなとずっと思っていた」と語ります。2021年度後半のリーグで既に一度次点を獲得しており、今回は2回目の次点でのプロ入りとなりました。奨励会に在籍した10年間のうち、実に半分の5年間を三段リーグで過ごしただけに、「奨励会の思い出は全部三段リーグ。あまりいい思い出はなく、昇段できたことが一番の思い出になる」と、喜びをかみ締めました。

AIによる研究が進む居飛車を得意とし、研究の深さと終盤の強さで知られる伊藤匠叡王を目標とする棋士に挙げています。「棋譜を見てよく勉強している。私は時には終盤で人を驚かせる手を指すこともあるので、そこに注目してもらいたい」と、自身の将棋の魅力をアピールしました。

将棋奨励会で四段昇段を果たした片山史龍、岩村凜太朗、生垣寛人、山下数毅の4新四段が将棋会館で記念撮影に応じる様子将棋奨励会で四段昇段を果たした片山史龍、岩村凜太朗、生垣寛人、山下数毅の4新四段が将棋会館で記念撮影に応じる様子

山下数毅新四段:イギリス出身、将棋AI開発も手掛ける異才

イギリス・ノッティンガム市出身の山下数毅新四段は、森信雄七段門下です。22年度後期から三段リーグに参加した際には「中学生棋士誕生」への期待も集まりましたが、次点獲得後は昇段争いに絡めない時期もありました。しかし、23年の竜王戦で5組に昇級し、24年には5組ランキング戦決勝に進出して2期連続昇級という離れ業を成し遂げます。この功績により、日本将棋連盟が今期リーグ終了時に次点を与えるという新たな規定が作られ、今回のプロ入りに繋がりました。

今期リーグは最終局に勝利してぎりぎり勝ち越しとなり、「今回(プロ入りの)権利を行使しなかった場合に今後上がれる保証も全くない」と考え、プロ入りを決断したと語ります。小学校高学年の頃にコンピューター言語の「C++」を習得して以来、プログラミングに熱中しており、自ら将棋AIを作成中です。「機会があれば将棋AIの大会にも出たい」と、将棋のみならずAI分野への意欲も見せています。

結論

今回の奨励会三段リーグ戦における4人同時四段昇段は、将棋界にとって新たな歴史の1ページを開く出来事となりました。岩村凜太朗、生垣寛人、片山史龍、山下数毅という個性豊かな若き才能たちが、それぞれの将棋への情熱と独自のスタイルを武器に、これからのプロ棋士としての道を歩み始めます。彼らが今後、どのような活躍を見せ、将棋界にどのような新風を巻き起こすのか、その動向から目が離せません。

参考文献