ソフトバンクのインテル投資:AI半導体競争と日本の「ラピダス」戦略

ソフトバンクグループが米インテルへ約3000億円もの異例の出資を発表しました。これは、需要が急増するAI半導体市場の重要性と、激化する世界の半導体競争の現状を浮き彫りにしています。かつて半導体大国だった日本が、国策半導体メーカー「ラピダス」を通じてこの競争にどう挑むのか、その戦略と課題を探ります。

AI半導体市場の動向を分析する専門家、古賀茂明氏AI半導体市場の動向を分析する専門家、古賀茂明氏

インテルと世界の半導体市場の変遷

かつてパソコン向けCPU(中央演算処理装置)で圧倒的な優位を誇ったインテルですが、近年は大きく様変わりしています。人工知能(AI)の原動力となる画像処理半導体(GPU)の分野では、米エヌビディアに完全な敗北を喫しました。さらに、半導体製造技術、特に微細化技術においては、エヌビディア、米アップル、米AMD、米クアルコムなどが設計した半導体を受託製造する「ファウンドリー」モデルを確立した台湾のTSMCに完全に後れを取っています。TSMCは最先端半導体分野で圧倒的シェアを誇り、韓国のサムスン電子がかろうじて追随する状況です。

米国政府のインテル支援と複雑な思惑

インテルはファウンドリー事業でTSMCへの再挑戦を目指しますが、資金は限られています。米バイデン前政権はCHIPS・科学法と国家安全保障関連プログラムに基づき、インテルに合計111億ドルの補助金を約束するも、実際の支払いは22億ドルに留まりました。同政権はインテル単独依存のリスクを回避するため、台湾TSMCや韓国サムスン電子にも巨額の補助金を約束し、米国内への最先端工場誘致を進めました。現トランプ政権は、インテルに対し、その見返りに未払い補助金89億ドルと引き換えに株式9.9%を米政府に渡すよう要求。業績不振と資金不足で追い詰められたインテルは、これを受け入れました。

ソフトバンク投資とAI半導体需要の急増

ソフトバンクグループによるインテルへの今回の投資は、米政府への株式譲渡と同時期に行われました。ソフトバンクの具体的な意図については様々な憶測がありますが、この動きが明確に示しているのは、半導体競争の「負け組」と見なされていたインテルでさえ、有力な投資先に変わり得るほど、今後のAIデータセンター向けの最先端半導体需要が極めて大きいという現実です。これから経済を根本的に変革する原動力となるAIに必須の最先端半導体は、米国だけでなく、日本にとっても極めて重要な戦略的物資となっています。

日本の半導体産業の再興と「ラピダス」の挑戦

日本は1990年頃、世界の半導体の5割以上を生産し、メーカー別ランキングで上位10社のうち6社が日本企業という、まさに世界一の「半導体大国」でした。しかし今やその面影はなく、日本のシェアは1割を切り、世界トップ10から姿を消しました。今後のAIの重要性を鑑みれば、そのための半導体を自国で製造したいという「夢」を追うのは自然なことです。中国、ドイツに抜かれたとはいえ、世界4位の「経済大国」日本の産業政策を担う経済産業省は、この「夢」の実現に向け動き出しました。2022年には国策半導体製造会社「ラピダス」を立ち上げ、2027年には現在の最先端である2ナノレベルの半導体量産を実現すると「大見得を切った」挑戦を続けています。

結び

AI技術の進化が世界経済の未来を左右する中で、最先端半導体を巡るグローバルな競争は激化の一途を辿ります。米国政府や大手企業が巨額の投資と政策を動員する中、日本もまた、国策半導体メーカー「ラピダス」を通じて、かつての「半導体大国」としての地位回復という壮大な「夢」に挑んでいます。この日本の挑戦が、激動する半導体市場の未来にどのような影響を与えるのか、その動向が世界から注目されます。

[出典] Yahoo!ニュース