引きこもり、V系バンド、そしてメジャーデビュー:元ν[NEU]ヒィロが語る成功と苦悩の日本社会

「太っているからサボったんでしょ」――担任教師の心ない一言が、一人の小学生を不登校と引きこもりの生活へと追いやった。しかし、伝説のビジュアル系バンド「Janne Da Arc(ジャンヌダルク)」との運命的な出会いが彼の人生を大きく変え、社会復帰への道を拓く。これは、かつて引きこもりだった少年が、人気ビジュアル系バンド「ν[NEU](ニュー)」のメンバーとしてメジャーデビューを果たし、オリコンチャートインも経験しながらも、予期せぬ「苦しみ」に直面した元ギタリスト・ヒィロさんの壮絶な物語である。彼の経験は、現代日本の若者が直面する社会的課題や、夢を追いかけることの光と影を浮き彫りにする。

担任の一言が引き金に:引きこもりから音楽への目覚め

小学校時代の担任からの何気ない一言で、ヒィロさんは不登校・引きこもりとなってしまった。しかし、V系バンド「Janne Da Arc」との出会いが彼に大きな影響を与え、再び社会と向き合うきっかけとなる。4年間の引きこもり生活を経て高校に入学した当初は、電車に乗るだけで吐き気に襲われ、閉所恐怖症に苦しみながらの通学だった。「空いている電車を選び、反対方面の始発駅から乗ることで、通常の倍以上の時間をかけて通学しました。自分で選んだ道だからと、決して諦めませんでした」と当時の困難を振り返る。

引きこもりだった頃の若きヒィロさん引きこもりだった頃の若きヒィロさん

ヒィロさんが通った高校は、様々な事情を抱えた生徒が集まる場所だったため、オタクで内向的な自分も肩身の狭い思いをせずに過ごせたという。1年生でできた3人の親友との交流を通じて、徐々に人と関わることに慣れていった。しかし、過去の不登校については、くだらないプライドから友人たちに打ち明けることはできなかった。文化祭や体育祭、クラブ活動が一切ない学校生活に、「矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』のような漫画の世界を夢見ていたので愕然としましたね」と語る。しかし、この環境が「学校以外でバンドを組もう」という決意を促し、インターネットの掲示板や楽器店のチラシでメンバーを探し始めた。

「1年半でメジャーデビュー」の誓い:戦略的バンド再編と自己改革

高校卒業後、フリーターとして生活しながら、20歳でプロ志向のメンバーと初のインディーズバンドを結成した。その後、いくつかのバンド活動を経て事務所に所属するも、メンバー脱退により活動休止を余儀なくされる。事務所社長からの「リーダーとしてバンドを立て直しなさい」という言葉を受け、ヒィロさんは「売れるバンドにするために、できることは全てやろう」と決意を固めた。

彼は売れるバンドを作るため、既存の曲を全て書き直し、完璧なビジュアル系バンドに必要なメンバーの条件を徹底的に検討した。「5人並んだときのステージ映えを計算し、ボーカルは身長170cmから175cm、ギタリストは2人とも155cmから165cm。さらに、メンバーのキャラクターが被らないように、万人受けするカッコいい系、元気で明るいタイプ、中性的な可愛い系という具体的な設定を設けました」。将来的にはメイクを薄くしてメジャーデビューすることを想定し、美形のメンバーを熱心に探した。

新メンバーの勧誘時には「1年半後に僕らは必ずメジャーに行く。できなかったら解散する。だから僕についてきて」と力強く宣言。その言葉通り、宣言から1年半後の2011年、「ν[NEU]」として見事メジャーデビューを果たした。

この頃、ヒィロさんは美容にも目覚めていく。半年間のバンド活動休止中に鏡に映る自分の老け具合に愕然としたのがきっかけだった。それまでメイク落としシートで顔をこする程度の簡単なケアしかしていなかったが、「男として憧れられる存在にならなければ」と決意し、スキンケアやサプリメントの研究を始めた。「ファンの子たちに『みんなの肌は俺が守る』と公言し、美容好きキャラを確立しました」と語るヒィロさん。当時はまだ男性のスキンケアは珍しく、ライブハウスの楽屋でパックをしていると、対バン仲間からからかわれることもあった。しかし、時が経ち、同世代のバンドマンたちが30代になると、「化粧水は何を使ってるの?」「おすすめのサプリメントを教えてほしい」と頼られる存在になったという。

夢の実現、そして新たな苦悩:メジャーデビューがもたらしたもの

メジャーデビューを果たした「ν[NEU]」は、音楽業界で大きなプロジェクトとして注目を集めた。それは同時に、メンバーが背負うことになる途方もない期待と責任を意味した。ヒィロさんは当時を振り返り、「輝かしい未来しか見えなかった僕らは、そこから想像を絶する苦しみを経験することになりました」と語る。長年の夢であったメジャーデビューの実現が、彼に新たな、そしてより深い苦悩をもたらすとは、誰も予想できなかっただろう。

成功の裏に潜むプレッシャーや葛藤は、多くの人が経験する普遍的なテーマであり、ヒィロさんの物語は、夢を追いかけ、それを掴んだ後にも続く人間的な挑戦を示唆している。

参考文献

  • 文春オンライン (Bunshun Online)