ロシアがウクライナに対し、開戦以来最大規模とされる空爆を実施したことを受け、ドナルド・トランプ米大統領は8日、対ロシア制裁の強化を警告した。首都キーウの主要庁舎が初めて被害を受けるなど、ウクライナ各地が攻撃され、国際社会からはロシアへのより強力な対応を求める声が高まっている。この状況に対し、トランプ氏はロシアに対する経済的圧力を強める姿勢を示しているが、その実行には欧州諸国の協力が不可欠であり、世界のエネルギー市場や主要国間の関係にも複雑な影響を及ぼしている。
ウクライナへの大規模空爆と甚大な被害
7日朝にかけて、ロシアはウクライナ全土にわたる大規模な空爆を展開した。特に首都キーウでは、政府の主要庁舎が初めて攻撃対象となり、甚大な被害を受けた。ウクライナ当局の報告によると、キーウのスヴャトシンスキー地区では9階建ての住居ビルが攻撃され、赤ちゃんと若い女性を含む少なくとも4人の市民が命を落とした。今回の攻撃には、少なくとも810機もの無人航空機(ドローン)と、13発のミサイルが使用されたとされており、その規模の大きさを物語っている。この未曾有の事態を受け、西側諸国からは、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア政府に対し、一層厳格な措置を講じるべきだとの声が強まっている。
トランプ米大統領が記者団に対し、ウクライナへの大規模空爆を受けロシア制裁の強化を示唆する発言をする様子。
トランプ氏の警告とクレムリンの反応
大規模空爆の報を受け、トランプ大統領は記者団に対し、「この全体的な状況に自分は満足していない」と述べ、ロシアに対する不満をあらわにした。これまでもトランプ氏はロシアに対し、より厳しい措置を取る可能性を示唆してきたが、プーチン大統領はトランプ氏が設定した期限や制裁の脅しを無視し続けており、トランプ氏もこれまでのところ、具体的な制裁強化には至っていない。7日、記者団からロシア政府を罰する「第2段階」への移行準備について問われた際、トランプ氏は「ああ、用意はある」と応じたものの、その具体的な内容については明らかにしなかった。
一方、クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は8日、いかなる制裁も「我が国の大統領が繰り返し表明してきた一貫した立場を変えるよう」ロシアに強いることはできないと述べ、西側諸国による経済制裁に対する毅然とした姿勢を強調した。
米国の経済的圧力と欧州への協力要請
トランプ氏の発言に先立ち、スコット・ベッセント米財務長官は、米政府は経済的圧力を強化する用意があるとしつつも、欧州諸国からのより強力な支援が不可欠であるとの見解を示した。ベッセント長官は米NBCのインタビューで、欧州連合(EU)加盟国が制裁措置や、ロシア産原油を輸入し続ける国々に対する二次関税を強化すれば、「ロシア経済は完全に崩壊し、プーチン大統領を交渉の席に着かせることができるだろう」と語った。さらに、「今はウクライナ軍がどれだけ持ちこたえられるか、ロシア経済がどれだけもちこたえられるかという競争のただ中にある」と述べ、時間の重要性を指摘した。
これまで米政府が実際に発動した中で最も厳しい措置は、先月、インドからの輸入品に対して課された50%の関税である。これは、インドがロシア産原油の購入を継続していることへの対抗措置であり、トランプ氏はこうした二次的な制裁を他国にも拡大する可能性を示唆しているものの、現時点ではまだ実行には移されていない。
国際社会の動きとエネルギー戦略
このような状況の中、トランプ氏は7日、ウクライナでの戦争終結に向けた協議のため、欧州の首脳らが8日か9日にアメリカを訪問する予定だと明らかにした。「特定の欧州の首脳らが月曜日(8日)か火曜日(9日)に個別に我が国を訪れる」と語ったが、具体的な氏名は伏せられた。トランプ氏は、数日中にプーチン氏との会談を行う意向も示している。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米ABCニュースのインタビューに応じ、欧州諸国に対しロシア産エネルギーの購入を完全に停止するよう強く求めた。「ロシアからのあらゆる種類のエネルギーの購入を止めなければならない。ちなみに、ロシアとのあらゆる取引も止めるべきだ。彼らを止めたいのであれば、いかなる取引もあってはならない」と訴えた。また、ロシアと取引を続ける国々に二次関税を課すというトランプ氏の方針を歓迎し、ロシアの収入源を断つ上で「正しい考えだと思う」と支持する姿勢を示した。
シンクタンク「エネルギー・クリーンエアー研究センター」(CREA)の報告によると、ロシアは2022年の全面侵攻開始以来、約9850億ドル(約146兆円)相当の石油と天然ガスを販売しており、その最大の購入国は中国とインドである。EU諸国はロシア産エネルギーの購入を大幅に削減したものの、完全な停止には至っておらず、2027年までに全ての購入を終了する計画を提示している。
こうした国際的な制裁強化の動きにもかかわらず、ロシアは市場の拡大を模索している。先週中国・北京で行われた会合で、ロシアは中国への天然ガス供給を増加させる方針を表明した。さらに、ロシアを含む産油国グループ「石油輸出国機構(OPEC)プラス」は増産に合意しており、これにより世界的な原油価格が下落する可能性が生じている。これは、ロシアの財政を圧迫しようとする西側諸国の取り組みを複雑化させる恐れがあり、対ロ制裁の効果に疑問符を投げかけている。
結論
ロシアによるウクライナへの大規模空爆は、国際社会の緊張を一層高め、ドナルド・トランプ氏の対ロシア制裁強化の警告を促した。米政府は経済的圧力を強める意向を示すものの、欧州諸国のより強固な支援が不可欠であり、インドへの二次制裁発動など、その実行には依然として課題が山積している。ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア産エネルギーの完全停止を求め、国際社会に連帯を訴える一方で、ロシアは新たな市場開拓やOPECプラスの増産を通じて、西側諸国の制裁に対抗する姿勢を見せている。この複雑な国際情勢は、対ロシア制裁の有効性と、ウクライナ情勢の今後の展開において、国際社会が一致団結した対応を取れるかどうかが問われる重要な局面を迎えていることを示唆している。
参考文献:
- BBC News
- エネルギー・クリーンエアー研究センター (CREA)
- Yahoo!ニュース