現代日本において「結婚できない」と悩む若者が増加しています。家族社会学者の山田昌弘氏は、本来異なるカテゴリーである「結婚」「就職」「実家」が、今の日本社会では密接に結びつき、若者の未婚化に大きく影響していると指摘しています。結婚相手に求める「普通」の基準が、統計上の「普通」と大きく乖離している現実も浮き彫りになっており、この社会的背景を理解することは、現在の婚活事情を読み解く上で不可欠です。
日本の結婚を取り巻く現状を考える女性。出典は『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』(朝日新書)
結婚を阻む「仕事」「家族」「借金」の壁
かつて結婚相談所を利用し、40歳を過ぎてようやく結婚できたという男性(一流私立大学理系卒)は、30歳頃に一度は結婚を考えたものの、勤務先の会社が倒産したことで交際を解消した経験を語りました。その後、正社員としての職を得るまで奮闘し、再び婚活を始めた時にはすでに40歳になっていたといいます。この事例は、「結婚」と「就職」が現代社会で深く連動している現実を如実に示しています。
他にも、婚活の現場では「結婚したい相手がいたが、家族に介護が必要な人がいたので諦めた」「付き合っていた相手に奨学金の返済が残っていることが分かり、結婚を断念した」「大好きな人だったが、非正規雇用者だったため結婚相手としては厳しかった」といった声が頻繁に聞かれます。これらは、個人の「結婚」という選択が、仕事の安定性、家族の状況、経済的な背景といった多様な要素に左右される、現代日本の社会構造を反映しています。
「普通」の結婚相手とは?婚活市場のギャップ
婚活市場でよく聞かれるのは「平均的な相手でいい」という要望です。多くの人が、介護が必要な家族がいる、借金がある、非正規雇用であるといった状況を「普通ではない」と捉えています。しかし、高望みをしているわけではなく、「年収2000万円」や「超絶イケメン」のような非現実的な理想を掲げているわけではありません。彼らが求める「普通」とは、「ごく普通に正規雇用の企業勤務で、年収は600万円くらい、奨学金の返済を抱えておらず、家族に要介護者がいない相手」といった具体的な条件を指すことが多いのです。
統計データが示す「平均年収」の現実
では、婚活において「普通」と認識されている「年収600万円」は、本当に日本社会で「普通」なのでしょうか。国税庁が発表した「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、現在の日本の労働人口における男性の平均年収は569万円です。これだけ見ると、確かに「普通」の範囲内に見えます。
しかし、この平均値は全世代を対象としたものです。婚活が活発な年齢層に絞って見てみると、実態は大きく異なります。20代後半男性の平均年収は約429万円、30代前半では約492万円が現在の水準です(同調査「年齢階層別の平均給与」より)。つまり、婚活において「普通」と認識されている年収600万円は、実際に結婚を考える世代にとっては決して「普通」の範囲ではなく、むしろ高い水準であることが統計データから明らかになります。この期待と現実のギャップが、「結婚できない」と悩む若者を増やす一因となっているのです。
結論
日本の若者が「結婚できない」背景には、個人的な感情や意欲だけでなく、仕事の安定性、家族の介護負担、奨学金などの経済的要因が複雑に絡み合っている現代社会の構造があります。さらに、婚活市場で求められる「普通」の条件が、実際の平均値と乖離していることも、未婚化を加速させる要因となっています。これらの状況は、家族社会学者・山田昌弘氏が提唱する「単身リスク」という視点からも理解を深めることができ、「100年人生」時代における個人の生き方を考える上で、避けて通れない課題と言えるでしょう。
参考資料
- 山田昌弘 (2025). 『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』. 朝日新書.
- 国税庁 (2023). 「令和5年分 民間給与実態統計調査」.