河合優実、朝ドラ『あんぱん』での輝き 蘭子役が示す「ローレン・バコール」の深層

女優・河合優実の大ブレイクは、もはや必然であり、その勢いは止まるところを知らない。彼女が演じる役柄は常に視聴者の記憶に深く刻まれ、作品全体を牽引するMVP級の存在感を放っている。現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、主人公・柳井のぶの奔放な妹、朝田蘭子を演じ、その繊細かつ凛とした演技は、まさに俳優としての充実期を迎えていることを示している。本作を通じて、河合優実が見せる抑制された表現の中にある情熱と、深い人間性が、多くの観る者を魅了してやまない。

第22週のMVP 河合優実演じる蘭子の繊細な一言

今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』第22週は、主人公・柳井のぶの夫、柳井嵩(北村匠海)の新たな活躍が焦点となった。嵩は『アンパンマン』の原点となる一枚を描きながらも、漫画家としてはなかなか代表作を生み出せず苦悩を抱えていたが、作詞家やテレビ番組出演など多岐にわたる分野で著名な存在へと成長する。第108回では、戦中の恩人である八木信之介(妻夫木聡)が立ち上げた会社から嵩の詩集が出版され、サイン会も大盛況に終わる。

一方、上京後に映画評論家として頭角を現したのぶの妹、朝田蘭子(河合優実)は、八木の会社で文章執筆や事務仕事を手伝い、その知性と実務能力を示していた。高知での少女時代を経て東京へ舞台が移る中、蘭子の成長物語は着実に深みを増している。淡々と、無駄なく、しかしどこか色香を帯びて変化する蘭子の姿を表現する河合優実の演技は、観る者を魅了する。特に第22週のMVPは、そんな蘭子がふと漏らした、一見するとさりげない、しかし深い意味を宿す一言にこそあると感じる。

NHK朝ドラ『あんぱん』で朝田蘭子を演じる河合優実NHK朝ドラ『あんぱん』で朝田蘭子を演じる河合優実

「ローレン・バコール」が象徴する蘭子の内面と映画への情熱

第108回で描かれたのは、どうやら八木に淡い恋心を抱いているらしい蘭子が、鏡台の前に座り、口紅を丁寧に塗る姿だった。その少し孤独感を漂わせる唇を、鮮やかな紅色がそっと縁取る。一連の優雅で控えめな動作を、河合優実は見事に演じきった。その後、のぶと妹の辛島メイコ(原菜乃華)が蘭子を訪ねてくる。「恋でもしちゅう」とメイコにからかわれた蘭子は、「ローレン・バコールの真似して、赤い口紅つけてみただけやって」と、口元をわずかに歪ませながらも否定してみせる。

映画評論家である蘭子が、ハリウッド黄金期の伝説的な大女優の名を口にするのは自然なことだ。しかし、この場面で「ローレン・バコール」という具体的な固有名詞を河合優実に言わせたことに、脚本家と演出家の深い意図が感じられる。ローレン・バコールは、特徴的な「ザ・ルック」と称された上目遣いと、クールでありながらも底知れぬ魅力を放つ美貌、そして洗練された演技で観客を虜にした女優である。彼女は1944年のデビュー作『脱出』で主演を務めたハンフリー・ボガートと翌1945年に結婚し、ハリウッドきってのおしどり夫婦としても知られている。

蘭子がバコールの名を口にすることで、単なる流行や見栄ではなく、彼女の映画に対する深い造詣、そして内に秘めたロマンティックな感情や情熱が示唆される。この短い台詞と口元のわずかな表情の変化を通じて、河合優実は蘭子の複雑な内面と憧れを巧みに表現し、その存在感を不動のものとした。この瞬間は、単なる台詞以上の物語を雄弁に語っていたと言えよう。

結論

河合優実が朝ドラ『あんぱん』で見せる朝田蘭子役は、彼女の類稀なる俳優としての才能と、無限の可能性を強く印象づけるものだ。特に「ローレン・バコール」という言葉に込められた意味合いは、蘭子という人物の奥深さと、それを繊細かつ鮮やかに表現しきる河合優実の演技力を雄弁に物語っている。彼女がまさに”時の人”として、今後どのような役柄で私たちを魅了するのか、そして『あんぱん』での蘭子のさらなる成長と活躍から、ますます目が離せない。

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