2024年10月13日よりフジテレビ系で放送が開始された草彅剛主演ドラマ『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』は、その深いテーマ設定と実力派キャストで放送前から大きな注目を集めていました。遺品整理という仕事を通じて故人の想いを遺族に届ける主人公の姿が、視聴者の心に温かい感動を呼び起こすヒューマンドラマとして期待が高まる中、第1話後半で突如として挿入された「不倫フラグ」とも取れる展開が、作品の方向性について様々な議論を呼んでいます。
ドラマ『終幕のロンド』が描く深い人間ドラマの序章
主人公・鳥飼樹を演じるのは、演技力に定評のある草彅剛。樹は5年前に病で妻を亡くし、幼い息子を男手一つで育てるシングルファーザーという設定です。元々は商社マンとして多忙な日々を送っていましたが、妻の遺品整理を依頼した際に遺品整理会社の社長(中村雅俊)と出会い、その縁をきっかけに自身も遺品整理人となります。
このドラマの序盤では、亡き妻との切ない過去を背負いながらも、故人の遺品に宿る「最期の声」を遺された家族に届けることに尽力する樹の誠実な姿勢が丁寧に描かれます。第1話の前半部分では、その繊細で心温まるストーリー展開に多くの視聴者が涙腺を刺激され、「これは上質な人間ドラマになる」という期待感が大きく膨らんでいました。遺品が語る物語を通じて、生と死、そして家族の絆を深く掘り下げる作品として、視聴者の心を掴むことに成功したかに見えました。
草彅剛が主演ドラマ『終幕のロンド』撮影中に見せる真剣な表情
第1話後半、突然の「恋愛フラグ」に視聴者困惑
しかし、第1話の後半に差し掛かると、物語は予期せぬ方向へと舵を切ります。余命3カ月を宣告された老女(風吹ジュン)から生前整理の依頼を受けた樹が、その見積もりのために自宅を訪れていた際、老女の娘である御厨真琴(中村ゆり)が帰宅します。母親の病状を知らされていなかった真琴は、自宅に樹がいることに不審を抱き、動揺して転びそうになります。その瞬間、樹が真琴を抱きかかえ、そのままベッドに倒れ込むというシーンが描かれました。仰向けになった真琴の上に樹が覆いかぶさるような体勢で見つめ合う二人。この描写は、一部の視聴者からは「安易な恋愛ドラマのようだ」と受け止められ、作品が持つはずの感動的なトーンから一転、戸惑いや興ざめの声が上がりました。
論点となる「不倫設定」の波紋と公式サイトの記述
問題視されたのは、そのシーンの演出だけではありません。真琴が怪訝な表情で樹に問いかける場面では、二人の間に特別な感情が芽生えているようには見えなかったものの、この描写が今後の恋愛展開、いわゆる「恋愛フラグ」であることは明白でした。さらに、真琴には大企業グループの次期社長である夫(要潤)がいることが明かされており、これは事実上の「不倫フラグ」を意味します。
事前情報なしで視聴していた場合、この展開は特に衝撃的だったかもしれません。しかし、ドラマの公式サイトにはイントロダクションとして「戸惑いながらも、やがて2人の間に芽生えるのは、切なくも温かな“大人の恋”。」と記述されており、真琴の人物紹介欄にも「誠実で優しい樹に心救われ、既婚の身でありながら、いつしか強く惹かれていくーー。」と明記されています。これらの情報からは、二人の関係が恋愛へと発展することが示唆されていますが、遺品整理というセンシティブなテーマを扱ったハートフルな人間ドラマにおいて、このような「既婚者同士の恋愛」という設定が本当に必要だったのか、という疑問が投げかけられています。
「ノイズ」を超越する感動の必要性
故人と遺族の想いを繋ぐという作品の根幹にあるテーマに対し、突然の不倫展開が挿入されることで、物語の焦点がブレてしまうのではないかという懸念も指摘されています。もちろん、シングルファーザーである主人公の新たな恋愛を描くこと自体は否定されるべきではありません。しかし、今回のような「転んだ拍子にベッドで見つめ合う」といった、ある意味で古典的かつ陳腐な演出、そしてその相手が既婚者であるという設定は、物語に「ノイズ」を生じさせかねません。
制作者側が、何らかの意図をもって真琴を既婚者としたことは想像に難くありません。この設定が、後に大きな感動を導くための伏線となる可能性も十分にあります。しかし、その「感動」が、視聴者が抱く「不倫」へのモヤモヤとした感情や「違和感」という「ノイズ」を上回る規模でなければ、この設定の意義は問われ続けるでしょう。つまり、わざわざ不倫という要素を導入してまで得られるプラスの感情が、それによって生じるマイナス要素を大きく凌駕しなければ、視聴者は「なぜ独身の相手ではいけなかったのか」という疑問を払拭できないかもしれません。
今後の展開において、この「不倫設定」が単なる「ノイズ」で終わらず、作品全体をより深く、感動的なものへと昇華させるための重要な意味を持つことを多くの視聴者は期待しています。