2026年度前期のNHK連続テレビ小説『風、薫る』に、女優の多部未華子が出演することが発表され、大きな注目を集めています。多部未華子といえば、2009年度前期の朝ドラ『つばさ』でヒロインの玉木つばさを演じ、その確かな演技力を見せつけました。今回の17年ぶりの朝ドラ復帰は、彼女のキャリアにおける新たな節目となるでしょう。
多部未華子、17年ぶりにNHK朝ドラ『風、薫る』出演決定。女優としての円熟味が増した表情。
異色作『つばさ』で確立した「ハタチのおかん」像とその革新性
多部未華子さんがかつてヒロインを務めた『つばさ』は、今振り返っても朝ドラ史において非常に個性的な作品として記憶されています。ドラマ評論家の成馬零一氏は、『つばさ』が持つ多角的な魅力と当時の朝ドラにおける位置付けを次のように分析しています。
ドラマ評論家・成馬零一氏が語る『つばさ』の多角的魅力
成馬氏によると、『つばさ』の主人公・玉木つばさは「ハタチのおかん」として登場し、家の家事をこなし実家の和菓子屋を継ごうとする保守的なキャラクターでした。これは、自由奔放な母親が家を出たため、家を守るという重荷を背負い、無意識に自分を抑制してきた女性が徐々に変化していく物語を描いています。また、舞台が埼玉県内で完結し、「上京」といった定番の朝ドラ展開が描かれない点も珍しく、久世光彦氏と向田邦子氏が手掛けた『寺内貫太郎一家』のようなホームコメディを意識した作りだったと指摘されています。
さらに成馬氏は、『つばさ』が『ちゅらさん』や『ちりとてちん』から『あまちゃん』へと続く久世光彦的なコメディ路線の過渡期に位置すると述べます。SNS文化が浸透する前の作品であり、サブカル的なブームにはならなかったものの、その個性の強さから賛否が分かれつつも、熱狂的な支持者も多かった隠れた傑作でした。特に、写真家・佐内正史氏の作品を中心に構成されたオープニング映像は、現在の『ばけばけ』のオープニングとも類似する卓越した表現で、視聴者に強い印象を残しました。
多部未華子の演技力:当時から完成された俳優としての評価
多部未華子さんのヒロイン抜擢について、成馬零一氏は「当時からすでに完成されている役者だった」と評価しています。現代では朝ドラ出演が「俳優としての登竜門」と見なされがちですが、多部さんに関してはその大袈裟な印象はなく、その実力から「出演して当然」と自然に受け止められていたといいます。
現代と異なる「朝ドラヒロイン」の選出背景と多部未華子の軌跡
2000年代の朝ドラは、SNS普及以前の時代背景もあり、番組の視聴手段が限られ、評価も現在ほど安定していませんでした。そのような中で多部未華子さんの起用は、純粋に実力ある若手俳優が選ばれたという印象が強かったと成馬氏は語ります。彼女は『つばさ』出演以前から、『山田太郎ものがたり』でのコメディ演技や、『鹿男あをによし』でのミステリアスな少女役など、非常に広い演技の幅を見せていました。近年では母親役など年齢相応の役も自然に演じ、今回の『風、薫る』での大山捨松役、特に主人公のメンター的な役割を担うならば、その円熟した演技で確実に全うできるだろうと期待が寄せられています。
『風、薫る』での「鹿鳴館の華」:後輩俳優への影響と新たな挑戦
『風、薫る』で多部未華子さんが演じる大山捨松は、「人生に多大な影響を及ぼす、“鹿鳴館の華”」と称される重要な人物です。17年ぶりの朝ドラ復帰となる多部未華子さんが、見上愛さんや上坂樹里さんといった若手俳優にどのような影響を与え、物語にどのような深みをもたらすのか、その新たな挑戦に注目が集まります。





