高市政権、OTC類似薬の保険適用見直しで試される真価 – 医療費改革の波紋

高市早苗首相は10月24日の所信表明演説にて、「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」に言及し、大きな注目を集めました。これは、連立を組む自民党と日本維新の会の政権合意書にも明記されている重要政策であり、厚生労働大臣に就任した上野賢一郎氏も10月22日の会見で「丁寧に議論していきたい」と前向きな姿勢を示しています。しかし、この市販薬と成分が同じであるOTC類似薬の保険適用除外案は、自民党の強力な支持基盤である日本医師会から猛反発を受けることは必至です。現役世代からの高い支持率を誇る高市政権にとって、この社会保障制度改革は、その政治的手腕が試される最大の難題となるでしょう。

高市政権の面々:OTC類似薬保険適用見直しの舞台裏高市政権の面々:OTC類似薬保険適用見直しの舞台裏

日本維新の会が掲げる社会保障制度改革の柱

自民党との連立により政権入りした日本維新の会は、これまで「大阪都構想」や「議員定数削減」といった政策が注目されがちでした。しかし、吉村洋文代表が党の存在意義として特に力を入れてきたのは、「社会保障制度改革」です。維新の会は、国民の手取りが増えない主因が社会保険料にあると指摘し、従業員と雇用主双方による社会保険料の国への支払いを問題視しています。さらに、医療費は2040年には2020年比で1.9倍の80兆円に達すると予測し、現役世代に重くのしかかる負担に対する制度の見直しが不可欠であると強く訴えてきました。

医療費を年間4兆円削減することで、現役世代一人あたり年間6万円の負担軽減が可能になると試算されており、この医療費削減の重要な財源の一つとして想定されているのが、OTC類似薬の保険適用見直し案なのです。

OTC類似薬とは?〜処方薬と市販薬の「同じ成分」問題

では、具体的に「OTC類似薬」とは何を指すのでしょうか。これは、薬局やドラッグストアなどで一般に購入できる市販薬と、成分や効能が同じであるにもかかわらず、医師の処方箋が必要とされる薬を指します。

例えば、医療機関で処方される鎮痛剤「ロキソニン錠60mg」と、薬局で販売されている市販薬「ロキソニンS」を比較してみましょう。両者の有効成分名は「ロキソプロフェン」で、全く同じです。「ロキソニンS」を製造販売する第一三共ヘルスケアのウェブサイトでも、「成分、成分量、添加物、錠剤の大きさ、剤形は同じです。異なる点としては、錠剤に割線、刻印が入りません」と説明されています。

そもそも「ロキソニンS」は、2010年に厚生労働省によって市販薬としての販売が認められた「スイッチOTC」と呼ばれるカテゴリーの薬です。つまり、成分が全く同じ薬であるにもかかわらず、「ロキソニン錠60mg」は健康保険が適用される一方で、「ロキソニンS」は全額自己負担となるという、矛盾した状況が生じています。

1兆円の増収効果か?改革の具体的な試算と課題

この問題に長年取り組み、追及してきた日本維新の会所属の参議院議員・猪瀬直樹氏は、OTC類似薬の保険適用除外によって、年間1兆円もの増収効果が見込めると試算しています。猪瀬氏のリストアップによれば、市販薬と成分が同じOTC類似薬の有効成分は28種類あり、それらだけでも薬剤費の総額は年間1543億円にのぼります。

その中でも特に薬剤費が高額なのが「ヒルドイドクリーム0.3%」で、年間544億円を占めています。この薬は、本来は乾燥肌や血行促進に使われるものですが、美容目的での処方・購入が広がり、一部の医師を悩ませる「いわくつき」の薬としても知られています。

このような状況を是正し、医療費の適正化を図る狙いがある一方で、この改革は、日本の医療制度の根幹に関わる大きな変更であり、強力な政治的抵抗に直面することは避けられないでしょう。


参考文献: