TBSで放送中のドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」が、そのリアリティとコミカルな描写で大きな話題を呼んでいます。特に、主演の竹内涼真が演じる主人公・海老原勝男が放つ「昭和の男」的な発言は、現代社会における男女間の価値観の衝突を鮮やかに浮き彫りにし、多くの視聴者の共感を呼んでいます。エンターテインメントに詳しい村瀬まりも氏は、本作の人気が、女性が料理を担うという暗黙の社会的なプレッシャーをリアルに描いている点にあると指摘しています。初回視聴率6.3%からスタートした本作は、11月11日放送の第6話で8.1%まで上昇するなど、最終回に向けてさらなる注目が集まっています。TVerなどの見逃し配信でもドラマ部門ランキング1位を獲得することが多く、その影響力の大きさがうかがえます。
視聴者を惹きつける「昭和の男」の衝撃発言
ドラマの魅力の中心にあるのは、竹内涼真演じる海老原勝男が繰り返す、現代社会では物議を醸すような発言の数々です。「男が朝から料理するわけないだろ」と料理を女性の役割だと決めつけたり、女性の後輩に対して「弁当ぐらい作れ。料理しない? うわーマジか」と驚きを露わにしたりします。さらに、「家で料理作って愛する人の帰りを待つっていうのはさ、女の幸せだと思うけどな」といった、昔ながらの価値観を押し付ける言葉が次々と飛び出します。彼女が作った夕食に対しても、「全体的におかずが茶色すぎるかな。もうちょっと彩りを入れたほうがいい。これは鮎美が『もっと上を目指せる』って意味でのアドバイス」と、あたかも指導するような態度を見せます。これらの発言は、谷口菜津子氏による同名コミックが原作となっており、その大部分が原作漫画に忠実に描かれています。
完璧なカップルの裏側:すれ違う料理への価値観
勝男は、大分県の中小企業の社長の三男として育ち、専業主婦の母親が作る手料理を食べてきました。特に「おふくろの味」としてこよなく愛するのが筑前煮です。大学時代にはミスコンで恋人の山岸鮎美(夏帆)と共に優勝し、「パーフェクトカップル」として周囲から羨望の眼差しを浴びていました。商社の受付で働く鮎美は、仕事が終わると勝男が暮らす高円寺駅近くのマンションへ向かい、和食好きの勝男のために毎晩、手間暇かけて筑前煮などの料理を作っていました。周囲も公認の同棲生活は、ほとんど結婚しているに等しい状態でした。
料理を作る女性の手元
拒否されたプロポーズと隠されたモラハラ
しかし、満を持してプロポーズした勝男に対し、鮎美は「無理、別れたいの」と即答し、その日のうちにマンションを出ていってしまいます。勝男は絶望の淵に突き落とされ涙しますが、鮎美が結婚を拒否した本当の理由は、「勝男さんに言ってもわからない」と詳しく説明することはありませんでした。実は、鮎美こそが、勝男のモラハラ的な発言やデリカシーのなさにずっと絶望を感じていたのです。勝男の言動は、現代の男女関係において問題視される「モラルハラスメント」の典型として描かれています。
鮎美の「妥協」が生んだ誤解と現実
鮎美にも、雑誌のモテ特集を参考にするなど、男性に媚びるような打算的な一面がありました。彼女は「条件が良い」勝男との結婚を目指し、同棲生活で我慢を重ねてきたのです。勝男が料理に対して「彩りが悪い」「おかずと味噌汁の具が同じ」「味噌汁の具が季節外れ」などと細かく注文をつけても、鮎美は「じゃあ、あんたが作ってみろよ」と感情的になることなく、「次から気をつけるね」と笑顔で対応し続けました。会社では後輩たちから「化石」と揶揄される勝男も、鮎美のこうした態度によって、自身の言動が時代遅れで間違っているとは実感できずにいたのです。このドラマは、コミュニケーションの重要性と、言いたいことを言えない関係性の脆さを問いかけています。
「じゃあ、あんたが作ってみろよ」は、単なる恋愛ドラマに留まらず、現代社会における男女の役割、そして料理を巡る価値観の衝突を深く描いています。勝男の無自覚なモラハラと、鮎美の我慢が交錯する中で、私たちは自分たちの日常に潜む偏見や固定観念に気づかされます。このドラマが提示する問題提起は、私たち一人ひとりが、より健全で対等な関係を築くために何ができるのかを考えるきっかけとなるでしょう。





