スカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏らした疑いで、警視庁の警部補が逮捕された。反社会的勢力を取り締まるはずの警察官が事もあろうに、敵に魂を売っていた――。全国の警察関係者に衝撃が走った事件の端緒は、意外にも「不倫疑惑」だったという。
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マルボウの裏切り
警視庁暴力団対策課(通称・マルボウ)の警部補、神保大輔容疑者(43)が12日、捜査対象だった国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に監視カメラ情報を漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕された。ナチュラルは、性的なサービスを行う店に女性をあっせんすることで巨額の収益を得ていた。
神保容疑者は所轄時代も含めて組織犯罪捜査の経験が長く、2020年から暴対課に所属。遅くとも2023年ごろからはナチュラルの捜査に当たっていた。
ナチュラルは匿名・流動型犯罪グループ(匿流)とされ、警察内部では要注意組織としてマークされていた。新宿・歌舞伎町を中心に全国の繁華街で女性をあっせん。2022年にはあっせん先の店からおよそ45億円もの報酬を得ていたとされる。しかも暴力団にみかじめ料を払うなど、資金が渡っていた疑いまで浮上し、まさに全国の警察が血眼になって壊滅を目指す「反社中の反社」だ。
その捜査に冷や水を浴びせたのが神保容疑者だった。「恥の上塗りとはまさにこのことですよ」と語るのは容疑者を知るある捜査関係者だ。いったいどういうことか。関係者の説明を基に経緯を追ってみよう。
「空振り」から始まった不信感
事の発端は今年1月。警視庁の暴対課を含めた捜査本部が、ナチュラル幹部の一斉摘発に踏み切った。ところが、実際に逮捕できたのは末端の2人のみ。上層部を取り逃がす結果に、捜査員の間にはこんな疑念が生まれていたという。
「情報が抜けている……」
ナチュラルの「組織力」については、警察内部でもすでに警戒されていた。
警察の存在を「ウイルス」と呼び、独自に開発した内部連絡用アプリで私服警察官の顔写真を共有する。歌舞伎町に限らず、全国各地でスカウト行為をし、所属するメンバーは1500人とも2000人とも言われている。
メンバーには取り調べを想定した研修が施され、いざという時には、グループに迷惑がかからないよう「フリーのスカウト」を名乗るよう厳命されるほどの手の込みようだ。
その上で、満を持しての一斉逮捕の「空振り」に、警察上層部が内部調査を本格化させたのは当然の成り行きだった。






