岩手・北上ツキノワグマ襲撃事件: 元レフェリー犠牲、緊迫の駆除

2025年10月17日朝、岩手県北上市の山中で痛ましいツキノワグマによる人身被害が発生しました。瀬美温泉の従業員Aさん(60)とみられる遺体が発見され、その至近距離で体長140センチ、体重80キロの雄のツキノワグマが駆除されるという衝撃的な事件です。Aさんはかつてプロレス団体のレフェリーを務めていた人物でした。

事件は前日の10月16日午前に遡ります。午前9時頃、Aさんは夏油川沿いの露天風呂へ清掃に向かいましたが、その後戻ることがありませんでした。別の従業員が様子を見に行くと、露天風呂周辺からAさんの姿は消え、血痕が残されていたとのこと。午前11時過ぎに110番通報があり、警察が駆けつけた際には、露天風呂の周囲に数センチ大の黒っぽい肉片が3つ散乱しており、川側の柵付近には何かが引きずられたような跡が見つかりました。この状況から、「クマに連れていかれたのではないか」との疑念が浮上しました。

温泉従業員を襲った悲劇と捜索活動

事態を重く見た地元猟友会のメンバーが招集され、翌17日の朝8時から本格的な捜索活動が開始されました。捜索隊は警察と協力し、2手に分かれて山中を探索。その最中、一人のハンターが空を見上げると、2羽のトンビが川沿いの林の上空を一点に集中して旋回しているのを目撃しました。大型ヘリコプターが低空を飛行する騒音にもかかわらず、鳥たちがその場を離れようとしない様子に、「下に何かいるのではないか」とハンターは直感したといいます。この直感は、後に犠牲者の遺体とクマが発見される場所を指し示していました。北上市猟友会の鶴山博会長は、19人のメンバーが捜索に加わったと語っています。

本州・四国に生息するツキノワグマの注意喚起イメージ本州・四国に生息するツキノワグマの注意喚起イメージ

緊迫のクマとの遭遇、そして駆除

午前9時10分、川を渡りトンビが旋回していた地点の直下に向かった猟友会メンバーと警察のチームが、悲劇的な発見をすることになります。先頭を進んでいたハンターが河畔の雑木林を上った直後、目の前の草むらで動くものを見つけ構えたところ、驚いたクマが土手を約5メートル駆け上がりました。クマとハンターの目が合い、クマが向かってくる素振りを見せた瞬間、乾いた3発の銃声が鳴り響きました。最初の1発がクマの左のこめかみに命中し、クマは土手を転がり落ち、その下に横たわっていたAさんとみられる遺体と重なるようにして息絶えました。

銃撃に当たったハンターは「殺されるかと思った」と当時の恐怖を語っています。こめかみを撃たれた後もクマはしばらく動き続けていたといいます。動物よけの轟音玉を鳴らしてから林に入ったにもかかわらず、クマは動じることなく、犠牲者の遺体に執着してその場に留まっていた様子でした。発見された遺体はうつ伏せに横たわり、クマの鋭い爪による深い引っ掻き傷が痛々しく残されていたとのことです。

この事件は、日本各地で頻発するツキノワグマの目撃情報や人身被害の深刻さを改めて浮き彫りにしました。地域の安全対策とクマとの共存に向けた一層の取り組みが求められています。


参考文献: