日本各地でクマによる被害が相次ぎ、社会問題としてその深刻さを増しています。自衛隊による後方支援は既に終了したものの、現場での水際対策は依然として緊張状態が続いています。本稿では、報道カメラマンであり現役の猟友会員でもある宮嶋茂樹氏が指摘する、クマの急増によって浮き彫りになった「日本のハンターが直面するシビアな現状」と、それがもたらす課題に焦点を当てます。この問題は、単なる獣害対策に留まらず、社会全体の安全保障に関わる喫緊の課題となっています。
11月に箱わなを回収する自衛隊員(撮影:宮嶋茂樹)
減少の一途を辿る日本のハンター人口
日本における銃所持者は、警察官、自衛隊員、海上保安官、麻薬取締官、刑務官、入国警備官などを含め、約52万人に上ります。しかし、その大半は殺傷力が最小限の拳銃であり、自衛隊員が所持する小銃であっても、敵対行為に対する発砲は戦後80年間で一度もありません。一般の警察官でさえ、職務執行上で銃を発砲する機会は極めて稀で、犯人射殺に至るケースは数年に一度あるかないかといった状況です。
一方、民間人が銃所持許可や狩猟免許を取得してハンターになるための手続きは、各都道府県や年度によって合格率に大きな差がありますが、全体として年々厳しくなりつつあるとされています。全国組織である「大日本猟友会」のデータによると、1970年代のピーク時には、猟友会非会員を含め約50万人の銃所持者が存在し、国内には100万丁もの銃器がありました。しかし、半世紀が経過した2024年度には、第一種銃猟免許を持つ会員数は約5万6000人まで激減しています。全会員約10万人のうち、実に6割が60歳以上という高齢化が進み、危機的な状況にあります。
厳格化する銃規制の歴史と現状
日本の銃規制は、過去の重大事件が発生するたびに厳格化されてきました。1968年の金嬉老事件、1972年のあさま山荘事件、1979年の三菱銀行人質事件、2007年のルネサンス佐世保銃乱射事件、そして一昨年長野県中野市で発生した警察官2名を含む猟銃を使用した4人殺害事件など、猟銃が犯罪に悪用されるたびに、銃所持許可の条件や所持できる猟銃の種類、機能は継続的に制限され続けています。
これらの厳格化は、銃による事件の抑止には一定の効果をもたらしたものの、裏を返せば、獣害対策の最前線で活動するハンターの確保を一層困難にしています。高齢化と新規参入の減少、そして規制強化の三つの要因が複合的に絡み合い、「ハンター不足」という深刻な社会問題を引き起こしているのです。
結論:ハンター不足が招くクマ被害の悪循環
日本の社会が直面しているクマ被害の深刻化は、単にクマの生息数が増加しているだけでなく、その背景にハンター人口の減少と厳格な銃規制という複雑な問題が横たわっていることを示しています。長年の銃規制強化は、安全な社会を追求する上で不可欠な側面を持つ一方で、地域社会の安全を守る上で重要な役割を担うハンターのなり手を失わせる結果を招いています。この悪循環を断ち切り、効果的な獣害対策を講じるためには、ハンターが活動しやすい環境を整備しつつ、銃器の安全管理を両立させる新たな視点と政策が求められています。
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