バスもタクシーも撤退した過疎の町、町内の移動を守るのは「AI乗合タクシー」。役場職員も時には運転手に。続ける住民との対話、見出す活路


 「まじか……」

 鳥取駅近くの宿にチェックインし、スマートフォンで列車の時刻表を調べて絶句した。

【写真】「マジか…」筆者が絶句した鉄道やバスの時刻表

 筆者は暮らすように地域に滞在しながら、街の魅力をSNSなどで発信する「遊ぶ広報」という制度に参加するため、鳥取市に隣接する智頭町へ向かおうとしていた。翌日は午前11時半に、智頭町のレストランを予約していたのだ。

 鳥取駅から特急で智頭駅まで20分、そこから普通列車に乗り換えて1駅の土師駅からレストランまで徒歩5分。なので余裕で到着できると思いきや、土師駅に止まる列車は午前9時から正午まで1本もなかった。

 慌ててレストランに連絡すると、ありがたいことに店主が智頭駅まで車で迎えに来てくれた。この日は土師駅からさらに1つ先の駅の近くの宿を取っていたが、やはり列車は数時間に1本しかなかった。

 その後、観光協会の職員に「グーグルマップを見て駅近の店や宿を取っていたが、駅近の意味がなかった。田舎をなめていた」と話したところ、「うちは3年前に町営バスとタクシーも撤退したしねえ」と言われて、再び衝撃を受けた。

 車なしで町に来た筆者は「のりりん」の存在は知っていたが、使い勝手がよく分からないし、「知らない人の車に乗る」ことへの抵抗感もあり、極力列車を使うつもりだった。

 しかし初っ端から都会の人間の考えの甘さを思い知らされ、観光協会の職員に勧められて「のりりん」の1カ月定期券を購入した。利用してみると便利なことこのうえなく、路線バスの穴を埋めてくれるどころではない。詳細を知りたくて、飛び込みで智頭町役場に取材した。

 町民による共助交通、といっても多くの人にはピンとこないだろうが、ざっくり言えば“町民がハンドルを握るUber”だ。

 「のりりん」は年末年始を除く毎日午前6時から午後7時まで、智頭町内約270カ所の乗降ポイント間を1回500円(乗り合いは400円、定期券あり)で輸送する。

 全世帯に配られているIP端末かコールセンターを通じて配車を依頼すると、AIがドライバーやルートを割り当てる。AI任せだと季節や車幅によっては通れない道をルートに入れたり、ドライバーの負担を考慮せずに配車をすることがあるため、コールセンターの職員が最終調整して配車を確定する。



Source link