北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、昨年末の党中央委員会総会で演説し、これまで控えてきた核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の再開を示唆した。
トランプ米大統領との中止の約束を破棄するとちらつかせ、制裁解除の譲歩を得るねらいがあるとしたら、無駄な駆け引きというほかない。
金氏が取り組むべきは、核などの大量破壊兵器とすべての弾道ミサイルの速やかな放棄の決定と実行だ。核実験やICBMなどミサイル発射実験は破滅への道だと知るべきだ。
金氏は演説で、米韓合同軍事演習や制裁を理由に「これ以上、一方的に公約に縛られる根拠はなくなった」と述べた。
その上で「世界は遠からず、わが国が保有することになる新たな戦略兵器を目撃するだろう」と威嚇した。「強力な核抑止力の動員体制は恒常的に維持する。核抑止力強化の幅と深さは米国の今後の立場によって調整される」とも述べた。
対米交渉で認めるのは核・ミサイルの「幅と深さ」にすぎず、全面放棄のつもりなどないということだ。これでは制裁を解除することは到底できない。
ポンペオ米国務長官が「米国は大規模な軍事演習中止の約束を守っている」と述べ、北朝鮮こそ非核化などの約束を守るべきだと求めたのは当然である。
核・ミサイル保有に金氏がこだわるのは、放棄すれば各国から圧力が強まり、体制が維持できないと考えているからだろう。金氏は中央委総会で「わが人民が豊かに暮らすため、党は再び苦しく長い闘争を決心した」と述べたが、大きな矛盾をはらんでいる。
独裁体制維持のための核武装路線が、北朝鮮経済と国民の生活を塗炭の苦しみに陥れている。
北朝鮮の核・ミサイルは日本を含む世界の人々にとって現実の脅威である。完全な放棄が確認されるまで制裁緩和はあってはならない。新たな外貨を得た金氏は核・ミサイル戦力の強化につぎ込むからである。
演説を受けて、トランプ氏は金氏について「約束を守る男だと思う」と語ったが、甘い顔をするのはもうやめるべきだ。
北朝鮮の真の非核化の実現には経済、軍事両面で「最大限の圧力」路線に戻るしかない。