【ベイルート=佐藤貴生】イランは5日、欧米など6カ国と2015年に結んだ核合意をめぐり、合意で規定されたいかなる制限も順守しないとし、無制限にウラン濃縮を行うと表明した。ロイター通信などが伝えた。高濃縮ウランは核兵器への転用が可能で、昨年5月に核合意の段階的放棄を表明して以来、最も重大な内容。国際原子力機関(IAEA)との協力は継続するとしているものの、事実上核合意離脱の意思を示したとも受け取れ、米国との軍事的緊張が一段と高まる恐れがある。
米軍が3日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害し、イランは報復すると警告していたが、今回の合意放棄を受けて米国が反発するのは確実だ。
イラン政府は声明で、「無制限に濃縮を続ける」とした上で、濃縮を加速させうる遠心分離機の制限も撤廃するとした。一方でIAEAとの協力は継続する方針を示した。また、米政権が核合意を離脱して再開した制裁を解除すれば、速やかに合意の枠内に復帰できるとしている。
イランは昨年7月、核合意で定められた濃縮度3・67%をわずかに超える約4・5%のウランを製造した。ウランは濃縮度が90%に達すると核兵器転用が可能で、現時点では開きがあるが、昨年11月には初期型に比べて10倍の速度で濃縮できる遠心分離機「IR6型」を増設していた。
イランは昨年5月、核合意で規定された金融、原油など経済取引の維持を合意当事国の英仏独が実行していないとして、60日ごとに段階的に履行義務を放棄。昨年11月には、中部フォルドゥの山間部の近くにある地下核施設でウラン濃縮に着手し、合意維持を目指す仏などから懸念が出た。
合意放棄の「第5段階」となる今回の内容からは、ソレイマニ司令官を殺害した米国に対抗する意思もうかがえる。イランの報復に備えて3000人の米兵を中東に増派すると決めたトランプ米政権との対立が深刻化しそうだ。