保釈中に海外に逃亡したカルロス・ゴーン被告が何を主張しようが、不正な手段で出国し、日本の法を破ったことは疑いようがない。その行動は卑劣であり、一切、弁明の余地はない。
その上で、ゴーン被告の逃亡を許した日本の司法、出入国管理当局は猛省すべきである。
法務省は、逃走罪の適用を保釈中の被告にも拡大することなど刑法や刑事訴訟法の改正を法制審議会に諮問する方針を固めた。
自民党の法務部会には被告に衛星利用測位システム(GPS)装置着用を義務づけるなど保釈制度の見直しを求める意見があり、審議会での議論対象となる。
国土交通省は、プライベートジェット(PJ)に持ち込む荷物のエックス線検査を義務化する検討に入った。ゴーン被告は関西空港からPJで出国する際、音響機器用の大型ケースに身を隠して検査を逃れたとされている。
全て泥縄である。泥縄とは「泥棒を捕らえてから縄をなう」の略だが、泥棒を逃してから縄をなおうというのだから、甚だしい後手の踏みようだ。
それでも、何もしないよりはましである。
保釈中の逃走や再犯は後を絶たない。昨年11月、兵庫県尼崎市で神戸山口組の幹部が自動小銃で射殺された事件では、覚せい剤取締法違反の罪に問われて公判中で、保釈されていた元組員の男が逮捕された。
海外からの「人質司法」批判もあり、裁判所は近年、保釈を積極的に認める傾向を強めている。全国の地裁、簡裁が保釈を許可する割合は平成20年の14・4%から29年には31・3%と倍増した。
保釈は逃亡や証拠隠滅の恐れがない場合に認められるが、ゴーン被告は逃げたではないか。判断を誤った裁判所も、これを保証した弁護士も責めを負う。保釈の運用も再考すべきである。
違法な出国を許した事実は、テロリストや犯罪者の入国も可能性があることを示している。夏には東京五輪を控えており、出入国管理の体制強化や法整備は喫緊の重要課題である。
ゴーン被告の海外逃亡は、到底許し難い不法行為である。ただし一面で、日本の治安態勢の不備を見事に浮かび上がらせた。これを放置してはならない。万全を期す契機とすべきだ。