安倍晋三首相は中東3カ国歴訪で、地域の大国で「アラブの盟主」といわれるサウジアラビアなどと、米国とイランの対立などをめぐり意見交換し、緊張緩和に向け連携を確認する。中東へ派遣する海上自衛隊の活動に関しても理解を得たい考えだ。日本は原油輸入量の9割近くを中東に依存しており、地域の安定は死活問題といえる。リスクもあるが首相の強い意向で歴訪の調整が進んだ。
サウジは米国と同盟関係にあり、イランとは断交状態にある。昨年9月には石油施設への攻撃を受けた。サウジは危機の高まりを望まない考えを表明している。首相はイランの最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領と対話できる関係を生かし、情勢の安定化に向けたサウジとの連携を模索する。
主要野党は海自派遣に批判を強めるが、河野太郎防衛相は10日の記者会見で「中東の緊張が高まっている。だからこそ日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を強化しないといけない」と派遣の意義を強調。中東からの原油輸入の確保に「万全の準備をしたい」と述べた。
アラブ首長国連邦(UAE)とオマーンは、海自の活動地域であるオマーン湾やアラビア海に面している。首相は政府要人と会談し海自の活動を説明。理解と協力を得たい考えだ。
今回歴訪する3カ国は、いずれもイランとはペルシャ湾やオマーン湾を挟んだ隣国だ。米軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害や、イランによるイラク駐留米軍への弾道ミサイル攻撃によって安全確保への懸念が強まったことから、政府内では一時、歴訪には慎重論が浮上していた。
しかし、首相は一貫して中東訪問への強い意欲を示していた。米国と強固な同盟関係にあり、イランとも伝統的な友好関係を築いている日本による外交努力を続けるべきだと考えていたためだ。トランプ米大統領がイランによるミサイル攻撃で米国側に死者がなく「軍事的報復はしない」と表明したことで、偶発的な危険性はゼロとはいえない中での訪問を判断した。
首相は周囲に「トランプ氏は抑制的だった。イランもちゃんと考えて標的を外していた」と語った。(沢田大典)