オーケストラを経営する難しさは世界共通だ。コンサートを開いても儲(もう)からない。公的支援や企業からの寄付を募り、コンサートを開催してくれるスポンサー探しの繰り返し。それでも失敗して経営破綻の危機を迎えるオーケストラもある。万能の解決法が見つからない中で、世界各地で生き残りをかけた戦略の模索が続いている。(安田奈緒美)
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◆スピード再生
2011年4月、世界中の音楽業界を驚愕させるニュースが駆け巡った。アメリカ・ペンシルベニア州に本拠地を置く「フィラデルフィア管弦楽団」が、日本の民事再生法にあたる連邦破産法11条の適用を裁判所に申請することを明らかにしたのだ。アメリカの主要オーケストラが初めて経験する経営破綻だった。
1900年に創設されたアメリカ5大オーケストラのひとつに数えられ、華やかな音色は「フィラデルフィア・サウンド」と称され、世界で親しまれてきた。ディズニー映画「ファンタジア」の音楽を担当したことでも知られる。
そんな名門も1989年に延べ25万5千人あった定期演奏会の観客が2011年には延べ15万人に落ち込み、2008年からのリーマン・ショックによって行政や大企業からの支援をほとんどを失っていた。
「オーケストラが変わるための第一歩は、困難な状況を把握し、それらを改善する勇気を持つことでした」。同オーケストラ報道官のナタリー・ルイスさんは説明する。
「更生手続きを申請することによって名誉が傷つけられる」と一部には反対の声もあったが、楽団は一度、経営を白紙化する道を選んだ。翌年には当時37歳の新進気鋭の指揮者、ヤニック・ネゼ=セガン氏を音楽監督に招いてイメージを刷新。その後、運営側には経営に専念するポジションを新設し、外部から最高経営責任者を招いた。
破産前の収益構造はコンサート収入が5割近く、残りは公的資金や企業の寄付が大多数を占めていたが、破産後は個人寄付を4割近くに高めた。観客動員数に左右されるチケット収入や、景気に大きく影響される行政や大企業からの支援に頼らないためだ。
個人寄付を募るために教育活動などを通じて、地域社会に貢献する姿勢を明確にした。「再生には強力なビジョン、音楽的な未来像はもちろん、地域社会のニーズを満たすための未来像も必要でした」とルイスさんは強調する。
経営再建は1年で成し遂げられ、「フィラデルフィア・サウンド」は再び全世界に届けられている。