総務省が、NHKのテレビ番組のインターネットでの同時配信を認可した。視聴者は4月から追加の受信料を支払うことなく、スマートフォンなどでNHKの番組を見ることが可能になる。
ネット同時配信は放送と通信の融合をにらんだ新サービスで、その実現はNHKにとって悲願だった。視聴者の利便性が高まる取り組みではあるが、一方で懸念も根強い。同省がサービスを認可する条件としてきた経営改革が十分には進んでいないからである。
安定した受信料収入にあぐらをかき、NHKの業務が肥大化するようでは民放との健全な競争が損なわれる恐れがある。同省が一度は認可を見送り、業務の再検討を指示したのもこのためだ。
NHKグループの内部留保は約2千億円にのぼる。業務の効率化を通じ、受信料の値下げなどに充てることが求められる。それも公共放送の立派な役割である。
NHKは総合とEテレの番組を放送と同時にネット配信する。当初は24時間の常時配信を予定していたが、午前6時から翌日午前0時までの1日18時間とし、人件費を抑制するという。4月からの本格実施に向け、3月から1日17時間程度で試験的に実施する。
総務省はネット配信の条件として、業務の効率化などを求めていた。NHKではネット業務を受信料収入の2・5%以内に収めるとしたが、年7千億円を超える受信料は増加傾向にある。このままではネット配信に伴って業務がさらに拡大しかねない。業務抑制の仕組みが欠かせない。
経営改革にも取り組む必要がある。衛星放送を今の4波から3波に削減するというが、番組制作で随意契約が目立つなど高コスト体質の是正は急務である。競争契約を広げるなどの方法でコスト削減に努めてほしい。管理職らの処遇見直しも課題だ。
高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムの商用化が目前に迫る中で、NHKは公共放送からネットを含めた公共メディアへの進化を目指している。だが、視聴者が負担する莫大(ばくだい)な受信料収入を自由に使い、民放の経営を圧迫するようでは本末転倒である。
わが国の放送メディアは、NHKと民放の二元体制で築かれてきた。NHKが肥大化すれば、メディア全体の健全な発展に支障が生じることを忘れてはならない。