習近平主席、チベット自治区60周年式典に異例の出席:中国の狙いを読み解く

中国の習近平国家主席が8月21日、チベット自治区ラサ市のポタラ宮前広場で開催された自治区成立60周年祝賀大会に出席しました。この重要行事への主席の参加は、7月25日に新任駐中大使の信任状を受け取って以来、27日ぶりの公の場への姿であり、中国共産党がチベット問題に寄せる異例の重視と、国内外への強力なメッセージ発信を明確に示しています。今回の出席は、これまでの慣例を破るものであり、その背後にある中国の政治的意図と今後の政策方向性が注目されています。

異例の出席:習主席の健在と重視を示す

習近平主席は8月21日、標高4000メートルに位置するチベット自治区の中心都市ラサを訪問し、自治区成立60周年を祝う盛大な式典に出席しました。この訪問は、約1ヶ月にわたる公の場での沈黙を破るものであり、中国中央テレビ(CCTV)はこの日のメインニュースの約半分、16分間を割いて、クンガ空港での大規模な歓迎行事やラサ市民による熱狂的な歓迎の様子など、習主席の健在ぶりとチベットへの関与を大々的に報じました。

チベット自治区成立60周年記念行事に出席し、各界代表と記念撮影する習近平国家主席。チベット自治区成立60周年記念行事に出席し、各界代表と記念撮影する習近平国家主席。

1975年から10年ごとに開催されてきたチベット自治区成立記念行事において、権力序列第1位である国家主席が直接出席するのは、習主席が初めての事例です。過去には、高い標高による健康への影響を考慮し、江沢民氏や胡錦涛氏といった歴代主席は出席を見送ってきました。代わりに、1975年の華国鋒副総理を皮切りに、主に統一戦線機構である全国政治協商会議の主席が中央代表団団長として出席するのが通例でした。国営新華社通信は、習主席の今回の出席について、「党と国家の歴史上初めてのことであり、党中央が西蔵(チベットの中国名称)の業務を非常に重視し、西蔵の各民族・幹部・大衆への深い配慮を示したものだ」と高く評価しています。

王滬寧政協主席の祝辞と中国の内政強調

21日の記念式典は、軍儀仗隊による厳粛な五星紅旗掲揚式で幕を開けました。祝賀演説は習主席に代わり、王滬寧全国政治協商会議主席が中央代表団団長の資格で担当しました。王団長は演説の中で、チベット自治区が経験した目覚ましい経済発展に焦点を当て、地域生産総額が1965年の3億2700万元(約67億5320万円)から2024年には2765億元へと、実に154倍に増加したと強調しました。

さらに、王団長は「チベット問題は中国の内政であり、いかなる外部の干渉も容認できない」と強い姿勢で表明しました。そして、「祖国を分裂させ、西蔵の安定を損なおうとするいかなる試みも失敗するだろう」と付け加え、国内外に対し、チベットは中国不可分の一部であるという断固たるメッセージを発信しました。この発言は、1959年3月19日にポタラ宮広場で発生した大規模デモとその後の中国軍による流血鎮圧、そしてインドに亡命したダライ・ラマ14世(90)の後継者問題を巡る主導権争いを念頭に置いたものとみられます。チベット自治区は、朝鮮戦争中の1951年に人民解放軍がラサに進駐した後、14年後の1965年9月9日に正式に成立しました。

チベットの「中国化」推進の指示

式典の前日にラサ入りした習近平主席は、現地政府の業務報告を受け、チベット地域の「中国化」をさらに加速させるよう指示しました。特に、国家公用語の普及や宗教の中国化、法治化を体系的に推進するよう求めました。人民日報は21日付の紙面で、習主席のこれらの指示を大きく取り上げ、「国家通用言語と文字の普及を拡大し、宗教の中国化と法治化を体系的に推進せよ」という要請事項を強調しました。これは、チベット文化や宗教の特殊性を尊重しつつも、中国共産党の統治イデオロギーに沿った形での社会統合を進めるという明確な方針を示唆しています。

軍幹部の出席と政治的示唆

この日の行事には、軍からも中央軍事委員会委員である張升民・軍紀律検査委員会書記が出席しました。これは、50周年記念式典に当時の中央軍事委員会委員であった張陽・政治工作部主任が出席していたことと対比されます。張升民書記が、政治工作部主任級が出席するような公開行事に姿を見せるのは、今年5月以来今回が2度目であり、中国軍内部における権力バランスや序列、あるいはチベット問題に対する軍の関与の深さを巡る、何らかの政治的示唆がある可能性も指摘されています。

結論

習近平主席のチベット自治区成立60周年式典への異例の出席は、単なる祝賀行事参加以上の深い政治的意味合いを持っています。それは、自身の健在ぶりを内外に示すと共に、中国共産党がチベット問題に対して揺るぎない主権を主張し、いかなる外部干渉も許さないという強いメッセージを国際社会に発するものです。また、チベットの経済発展を強調しつつ、「中国化」をさらに推し進めるという方針を明確にすることで、民族統合政策の強化と国家の安定維持への断固たる姿勢を示しました。今回の訪問は、今後の中国の対チベット政策、ひいては少数民族政策の方向性を占う上で極めて重要な出来事となるでしょう。


参考文献: