首相が国会で、日本が直面する難題とその打開策を正面から説かないでどうするのか。
通常国会が召集され、安倍晋三首相が令和初の施政方針演説を行った。だが、国の基本に関わる皇位の安定継承問題への言及はなく、安全保障の根幹をなす対中政策についての説明は不十分だった。極めて残念だ。国会での活発な論議が必要である。
首相が演説で、「全世代型社会保障制度」実現を目指して改革の実行を約束し、東京五輪・パラリンピック成功への協力を訴えたのは当然だ。衆参憲法審査会で具体的な憲法改正案を示すことが「国会議員の責任」だと呼びかけた点もうなずける。
皇位継承は「国のかたち」そのものに関わる。男系(父系)継承が貫かれてきた最重要の原則が国民に広く知られていない問題がある。首相は過去の国会などで「男系継承が古来、例外なく維持されてきた重み」を語ってきた。具体的な安定策の検討に入る今年こそ、さまざまな機会をとらえて国民に説いていくべきである。
日中関係を首相は「地域と世界の平和と繁栄に、共に大きな責任」を有すると位置づけた。「首脳間の往来」に加え、あらゆる分野で交流を深め、「新時代の成熟した」関係を構築するとした。
このような前のめりの姿勢は危うい。中国は尖閣諸島を奪おうと狙っている。南シナ海の軍事化を進め、台湾を軍事的に恫喝(どうかつ)している。新疆ウイグルやチベットでの人権弾圧や香港問題はなんら改善していない。米中対立も根本的な解決が図られていない。
首相が述べた「首脳間の往来」は習近平国家主席の今春の国賓訪日を含んでいるのだろう。だが、日本の島を狙い、人権弾圧を繰り返す最高責任者の習氏をなぜ国賓として招くのか。首相の演説は納得できる理由を語っていない。都合が悪いことはなかったかのようにされても困る。
政治や行政への不信を招く問題もそうである。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件や昨年10月に公選法違反疑惑で辞任した元閣僚2人らの問題、「桜を見る会」をめぐるずさんな公文書管理への言及を避けたのはおかしい。扱いを誤れば国民の不信が一層増し、国政の停滞を招く。首相はもっと丁寧に国会や国民に語りかけるべきだ。