在日ロシア通商代表部の職員がソフトバンク社員に接近し、営業機密を提供させていた疑いが明らかになった。警視庁公安部は機密情報漏洩(ろうえい)事件を相次いで摘発。今月には米国製早期警戒機の特別防衛機密(特防秘)を漏洩させたとして航空自衛隊の元幹部(58)を逮捕した。自衛官をはじめ光学機器や半導体関連の民間社員らはこれまでも外国スパイの標的にされてきた。東京五輪・パラリンピックを半年後に控えてテロへの警戒度が高まるなか、情報管理の態勢強化が求められる。
ロシア通商代表部の職員による情報収集活動は、標的とする日本人を選定し、接待や現金報酬などで取り込んでいく手口が用いられることが多い。平成18年に警視庁公安部が摘発した通商代表部員と大手精密機器メーカー「ニコン」の元社員による最先端部品の窃盗事件では、都内の居酒屋などで十数回の接待を重ね、現金数万円が元社員側に渡ったとされる。
今回の事件でも、過去の事例と同様にソフトバンクに勤務していた荒木豊容疑者(48)は通商代表部職員から飲食接待を受け、現金も提供されていたとみられる。
ロシアのスパイは、旧KGBの流れをくむ対外情報庁(SVR)や軍参謀本部情報総局(GRU)に所属しながら通商代表部員など公的な身分で活動。警視庁公安部は、出頭を要請した職員らの所属を捜査し、籠絡した手口についても確認を進めている。
一方で、軍事や防衛に関する機密情報の厳格な管理が喫緊の課題として浮上している。
公安部が17日に日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反容疑で逮捕した航空自衛隊元1等空佐の会社員、菅野聡容疑者(58)は米政府から早期警戒機の情報提供を受けた際、米国政府関係者に1人で対応し、約3年間にわたって個人的に管理していた。航空幕僚監部広報室は、「悪意をもって行動された場合、それを見破るような二重のチェック態勢は、現段階では整っていない」と認める。
国内では、世界中から注目を集める五輪、パラリンピックが迫り、テロの危険性が相対的に高まっている。
テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長は「戦闘機のマニュアルもそうだが、自衛官の周りには当たり前のように防衛機密がある」と指摘。その上で「全員が意識を高く保つのは難しく、そこをテロリストにつけこまれる可能性もある。情報管理態勢の見直しはもちろん、個人の意識改革も必須だろう」と話した。