「この町で、『ライラ・マッキーさんが殺害された』と言わない方がいい」
先週、英領北アイルランドのロンドンデリーに取材で訪れたときのこと。住人にそう念を押された。マッキーさんとは昨年、ロンドンデリーで命を落とした女性記者のことだ。マッキーさんは、欧州連合(EU)加盟国の隣国アイルランドとの統一を求めるカトリック系の過激派「新IRA」の暴動を取材中、流れ弾に当たって死亡した。
国際社会は「暴動がマッキーさんを殺した」と批判したが、新IRA側は「不幸な事故」とみている。「殺害した」と非難されると激高するメンバーもいるという。住人たちは明らかに、新IRAを刺激しないように気を使っていた。
アイルランドへの併合を求める住民が多いロンドンデリーでは、英国のEU離脱への反発から、新IRAの人員が増えたとの情報もある。現地で取材していると「町のどの場所に新IRAが潜んでいるか分からない」との声も聞いた。
ロンドンデリーは、1972年にデモに参加していたカトリック系住民が英軍に射殺された血の日曜日事件が起こった地でもある。
「英国にとって離脱は輝かしい一歩かもしれない。でも、北アイルランドは英本土に翻弄され続けることを忘れないでほしい」。住人は遠くを見つめるように言った。(板東和正)