【カイロ=佐藤貴生】トランプ米政権が公表した中東和平案について、サウジアラビアやエジプトなどイスラム教スンニ派アラブの大国は、慎重な言い回しながらも評価する姿勢を示した。パレスチナ問題で反イスラエルの立場を示してきた半面、シーア派大国イランの脅威に対抗する上で米国の後ろ盾が欠かせず、資金面などで米国の支援を受けている事情もある。板挟みの中で「トランプ大統領を怒らせるリスクを避けた」(ロイター通信)と分析する識者もいる。
和平案はパレスチナ独立国家の建設を先送りし、東エルサレムに設置予定の首都からはイスラム教聖地がある旧市街を除外。難民の帰還権も認めなかった。
しかし、サウジは米政権の「努力」に謝意を表明し、エジプトはパレスチナなどに「注意深く徹底的」に案を検討するよう求め、ともに米国主導の和平協議を支援する姿勢を示した。
サウジもエジプトも、シーア派民兵組織などを通じて周辺国に影響力浸透を図るイランと対立している。
サウジは昨年夏、イランへの対抗策の一環として16年ぶりに米軍の駐留を承認。トルコのサウジ総領事館で起きた反体制記者殺害事件では、当局者が関与したとして国際社会が非難を浴びせる中、一貫して米国の援護を受けてきた。エジプトはアラブでイスラエルと国交がある数少ない国で、軍事面などで米国から多額の支援を受けている。
ただ、サウジとエジプトが加盟するアラブ連盟(22カ国・地域)は和平案を拒絶、協力しないとするコミュニケを出した。両国とも国内の反イスラエル感情への配慮が必要な上、アラブの大国として公に和平案を支持して域内に波風が立つ事態は避けたいとみられる。こうした複雑な思いが「玉虫色」の姿勢となってにじみ出た形だ。
トランプ氏の和平案公表にはバーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)などの外交官が立ち会ったとされる。米国によるスンニ派アラブの切り崩しが進んでいることを示した形で、米国の影響力の前でパレスチナ問題の重要度は急速に色あせている。