【カイロ=佐藤貴生】イランの首都テヘランでウクライナの旅客機が撃墜されてから、8日で1カ月になる。イランは当時の状況解明の鍵を握るブラックボックスを解析できないとしながら、他国には渡さない構えだ。ウクライナや57人が犠牲になったカナダはいらだちを強めており、ブラックボックス引き渡しをめぐる綱引きが続いている。
カナダ外務省が5日に出した声明によると、同国はブラックボックスを解析能力のあるフランスへ直ちに送るようイラン側に要求した。ウクライナのゼレンスキー大統領も引き渡しを求めているが、イラン側は4日、他国と協力して調査する姿勢を示すにとどめた。
ブラックボックスは操縦室のボイスレコーダー(音声記録装置)とフライトレコーダー(飛行記録装置)で構成され、イランが墜落直後に回収した。しかし、損傷している上に「世界で最も先進的装置」で解析に必要な機材がないとして、イランは1月後半に米仏の航空事故調査当局に機材を送るよう要請。両国から「前向きな返答はない」としていた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は1月下旬、ブラックボックスの解析で新たな事実が確認されるかは不明だとする一方、調査の「妨害者」という印象がイランのさらなる国際的孤立を招くとの見方を示した。
ウクライナのテレビ局は今月2日、撃墜の瞬間を目撃したとされるイランの航空会社の操縦士が、「ミサイルのような光が見えた」「爆発だ」などと述べ、管制塔に確認を求める音声記録を公表。ゼレンスキー氏は「イランが当初から(撃墜を)知っていたことを示している」と述べた。
イランはウクライナ側に供与した「極秘の証拠」がリークされたとし、一切の資料の提供を拒否する姿勢を示すなど態度を硬化させており、原因究明はさらに遅れることが予想される。
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ウクライナ旅客機撃墜 1月8日早朝、イランの首都テヘランでウクライナ国際航空の旅客機が離陸直後に墜落、乗客乗員176人全員が死亡した。関与を否定していたイラン側は11日、防空システムの担当官が巡航ミサイルと誤認し、独断で短距離ミサイルを発射したと認めた。撃墜の数時間前、イランは革命防衛隊の精鋭部隊司令官がイラクで米軍に殺害された報復としてイラク駐留米軍基地をミサイルで攻撃し、反撃に備えて警戒態勢をとっていた。