安倍晋三首相は北方領土問題の早期解決を目指し、ロシアのプーチン大統領と通算27回の会談を重ねてきた。平成28年に「新しいアプローチ」として打ち出した8項目の経済協力は大きく拡大し人的交流も進む。ハード、ソフト両面での関係強化を膠着(こうちゃく)する領土交渉の進展につなげる狙いがあるが、ここ半年近く首脳会談は行われていない。
「『新しいアプローチ』で問題を解決するとの方針のもと、日露の間でこれまでにない協力が実現している」。首相は7日の「北方領土返還要求全国大会」であいさつし、日露の一層の関係強化に意欲を示した。
首相がプーチン氏に8項目の協力プランを提案した平成28年5月以降、医療水準の向上やエネルギー開発などの項目で日本企業が参加する200超のプロジェクトが誕生。2015(平成27)年の原油安にウクライナ問題をめぐる欧米の経済制裁が重なり、景気が低迷するロシアにとって日本からの多額の投資は貴重な「経済支援」でもある。
北方四島での共同経済活動も観光ツアーとごみ処理の2分野で試行事業を開始。昨年秋には国後(くなしり)、択捉(えとろふ)両島への初めてのツアーを実施した。両国民の相互理解を将来の島の引き渡しに結び付けたい考えで「『ここは日本の領土だ』ということを意識させ続ける狙いもある」(外務省幹部)という。
ただ、これまでの経済協力が領土交渉の進展を後押ししているとは言いがたい。昨年9月、ロシア極東ウラジオストクでの首脳会談で首相は、日本の経済協力がロシア国民の生活向上や経済発展に貢献していると強調したが、交渉は進展せず、協議継続を申し合わせるにとどまっている。
しかも、任期が来年に迫る首相に対し、プーチン氏は2024(令和6)年まで大統領任期が保証されている。「交渉は期限を意識したほうが不利になる」(外交筋)とされ、首相は追い込まれかねない。
首相はプーチン氏から招待を受けた5月9日の対ドイツ戦勝75年式典に出席するためロシアを訪問し、8カ月ぶりの首脳会談に臨む方向だ。だが、「ロシアの四島占領を認めることになる」と懸念する声も根強い。(力武崇樹)