「食事の際に、部屋に弁当が置いてあるだけなんて、どういうことだ」
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染が拡大する中国湖北省武漢市から1月29日に政府のチャーター機の第1便で帰国した日本人の滞在先となった「勝浦ホテル三日月」(千葉県)で、帰国者から政府関係者に対し、こうした声が寄せられた。
自民党中堅議員は、政府が当初、帰国者に旅費として約8万円を請求する方針だったことと絡め「お客さんになってしまったのかな。少し我慢してもらえればありがたい」と漏らした。政府は生活環境の改善に奔走している。
新型肺炎の水際対策は、危機管理と人権とのバランスの難しさや、性善説に立脚することの危うさを改めて浮き彫りにした。
最たるものは感染の有無を調べる検査と滞在先だ。検査を強制できなかったため、第1便の帰国者206人のうち2人が拒否し、自宅に戻った。他者を感染の危険にさらす行動だとして非難が集中した。しかし、安倍晋三首相は1月30日の参院予算委員会で「法的拘束力がない。人権の問題もある」と語った。
政府は新型肺炎を「指定感染症」などに指定することで、感染が疑われる入国者に対し、空港や港の検疫所が強制的に診察や検査を行えるようにした。ただ、検査で「陰性」だと隔離はできず、自宅待機も要請にとどまる。
これには与野党双方から異論が出ている。危機管理に詳しい自民党の青山繁晴参院議員は、新型肺炎を隔離を可能とする感染症法の「1類」とすべきだと主張した。「脅威から国民の健康と命を守るのが人権の第一だ。命を失っての人権はない。『あなたとあなたの周りの人の人権を守るために、法の強制力に基づいて隔離します』としたほうが人権に沿っている」と話す。
立憲民主党の石橋通宏参院議員は1月31日の参院予算委で「人権のうち個人の自由権も社会権も同時に尊重されることが必要だ」と述べた。取材には「生存権は社会権だ。国が社会権を守るために積極的に対応することは人権無視ではない。人権擁護の先進国である欧州も(帰国者らの)隔離を含めて対応している」と語った。
政府はどう判断するか。
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【プロフィル】沢田大典
平成16年入社。さいたま総局を経て、夕刊フジ報道部で18年9月から政治取材に携わった。25年7月に政治部に異動し、現在は首相官邸を担当。