消費税増税に合わせて始まった、政府のキャッシュレス決済に伴うポイント還元制度の加盟店が100万店を超えたことが11日、分かった。すでに制度の対象となる中小店舗の過半数がキャッシュレスに対応したことになり、昨年は日本の「キャッシュレス元年」になったと喜ぶ関係者は多い。ただ、この勢いを持続させられるかには課題もあり、“キャッシュレス後進国”の汚名返上へ、今年は勝負の年になりそうだ。
ポイント還元が始まってからキャッシュレス決済は政府の予想を超えて広がってきた。ポイント還元に必要な予算が不足する懸念から、政府は令和元年度補正予算で約1500億円を追加措置するなど、キャッシュレスを推進したい経済産業省はうれしい悲鳴をあげる状況だ。
ただ、今年6月にポイント還元が終わった後も、キャッシュレス決済が使われ続けるかは不透明だ。大和総研の長内智主任研究員も「ポイント目当てで始めた人は多く、ポイントという『アメ』が無くなっても今の勢いが持続できるかが最大の焦点だ」と語る。9月からはマイナンバー(個人番号)カードを使った新たなポイント付与策も始まるが、普及率が低い同カードでどれだけの効果が得られるかは未知数だ。
重要なのは「利用者が現金よりもキャッシュレス決済の方が便利だと実感できているか」(長内氏)で、QRコード決済などの場合、スマートフォンでアプリを立ち上げて決済する手間を「面倒だ」と感じている人も少なくない。残された期間で、決済事業者が顧客をつなぎ留める新たなサービスを打ち出せるかがポイントとなりそうだ。
経産省の担当者も「今回の政策だけでキャッシュレスが普及するとは思っていない」と慎重だ。ポイント還元の対象は中小店舗のみで、大型店でキャッシュレス決済がどれだけ広がるかは見通せない。
昨年7月には、セブン&アイ・ホールディングス(HD)の「7pay(セブンペイ)」で不正利用が発覚するなど、キャッシュレス決済への不信感も根強い。偽札が少なく現金自動預払機(ATM)が充実するなど現金の利便性が高いことも、これまでキャッシュレスが進んでこなかった要因といわれており、人々の長年の習慣を変えることは容易ではない。
事業者の乱立も利便性の観点からは課題だ。キャッシュレスの推進は、キャッシュレスでの支払いが当たり前の訪日外国人対策でもあったが、日本独自のサービスが多く、外国人が来日して手軽に使える環境は整っていない。
ただ、現金を維持するためのコストは年間1兆円を超えるともされ、20%弱と低い日本のキャッシュレス比率を上げることは経済の効率化という観点でも重要だ。京都大公共政策大学院の岩下直行教授も「日本は現金への高い信頼性やデジタル経済への不信感を持つ人が今も多く、海外のようにすぐにキャッシュレス決済比率が高まるのは難しいだろう。ポイント還元終了後も、キャッシュレス推進の取り組みは継続していくべきだ」と話している。(蕎麦谷里志)