政府は、和牛や果物の遺伝資源を守るため、新法案や関係法改正案を今国会に提出し、成立を目指す。
和牛やイチゴなどの新品種は日本の知的財産である。長年の努力で品種改良を積み重ねてきた国や自治体、生産者らの努力の結晶ともいえる。
質の良い和牛が海外で生産されたり、イチゴやブドウなどの新品種が海外に流出すれば、日本の農家は大きな打撃を被る。種を盗まれた畜産農家や栽培農家にとって遅きに失した感はあろう。今後は新法の制定や関係法の改正で、知的財産の保護をより一層図りたい。
政府は和牛遺伝資源を知的財産として保護するため、新法案「家畜遺伝資源不正競争防止法案」を提出する。精液や受精卵の悪質な不正利用に対し、個人で罰金1000万円以下、あるいは10年以下の懲役、法人で3億円以下の罰金を科す方向だ。
種苗法の育成者権侵害や著作権法の著作権侵害など、他の知的財産侵害への罰則と同等の罰則を科した点が特徴だ。詐欺や窃盗で取得した場合や、契約範囲を超えて輸出した場合などを差し止め請求や損害賠償の対象とした。
不正利用を経て生まれた子や孫の家畜や精液を利用した場合も取り締まりの対象とする。不正な海外流出を企てる対価に見合わないと思わせる抑止効果が期待できよう。ただ、罰則強化してもそれを上回る報酬を提示された場合、精液などの遺伝資源を不正に横流しする者が出てこないとは言い切れない。従来以上に、流通管理の強化を進めることも大切だ。
和牛遺伝資源だけではない。イチゴやブドウなど新品種の海外流出防止も喫緊の課題だ。こうしている今も被害は拡大している。
政府は優良品種の海外流出を防ぐため、今国会に種苗法改正案を提出し成立を図る。新品種に海外持ち出しや特定地域外での栽培禁止といった利用条件を付けることで流出防止につなげる。
農水省の試算だと、イチゴだけでも5年間で220億円以上の経済的損失だ。新品種の開発には莫大な時間と費用がかかる。シャインマスカットは商品化に20年近くかかった。かけた時間と費用への努力が報われなければ、品種改良への意欲を減退しよう。
世界と勝負するためにもブランドの保護育成は欠かせない。