経済協力開発機構(OECD)の場で検討してきた多国籍企業への新たな課税ルールについて、日本を含む137カ国・地域が大筋合意した。インターネットを通じて国際的な事業を行う巨大なIT企業などへの課税を強化する内容である。
支店や工場などの拠点がない国にも課税権を認めることが柱だ。ネットサービスを受ける消費国も巨大なIT企業に課税できるため、公平性が確保しやすくなると期待される。
これ自体は前進である。だが同時に、新たな懸念も出ている。巨大IT企業を数多く抱える米国が新ルールに基づいて納税するかどうかを各企業の判断に委ねる「選択制」を提案しているからだ。これが導入されると、課税ルールが骨抜きになりかねない。
IT企業課税は、国家間で利害が対立するため各国が独自に課税する動きも出ている。いたずらに混乱が広がらないよう、国際的な協調の下で適正に課税する仕組みづくりを急ぐべきである。
新たな課税ルールをめぐり、OECDは対象企業の要件などを詰めており、年末までに最終合意を目指す。IT企業のデジタルサービスに加え、幅広い消費者向けのサービスも対象とする。
ただ、米国企業の反発を受け、米政府は昨年10月にOECDが新ルール案を公表した後、選択制の導入を提案した。これに対して日本を含む大多数の国が懸念を示したのは当然だ。企業に選択を任せれば、新ルールが機能しない恐れが強まるからである。
もっとも、今回のルールは米国側の同意がなければ、実効性を確保できないのも事実だ。米国の同意を得るための交渉は容易ではないだろうが、日本は積極的に米国に働きかけるなど、合意づくりの主導権を発揮してほしい。
巨大なIT企業は各国の税法の抜け道を探し、巨額の利益への課税逃れに走ってきた。こうした動きに各国で批判が高まり、国際的に課税する枠組みの検討が加速した。ここに来てアマゾンジャパンが日本に納める法人税を大幅に増やすようになったのは、この動きに対応したものといえる。
ルールがまとまらなければ、英国やフランスのような独自課税の動きが広がりかねない。そうなれば米国は対抗措置を発動する構えだ。紛争を招かないためにもルールづくりは欠かせない。