映画『パラサイト 半地下の家族』を観に行った。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得し、アカデミー賞では作品賞ほか4部門の栄冠に輝いた話題作だ。
期待に違わずすごい映画だった。舞台は韓国。北からの襲撃に備えて数多く作られたという、半分が地下に埋もれた家。そこに住む貧困家庭が、高台に住む上流階級の豪邸に仕事として入り込み、少しずつ寄生していく。
CGや派手なアクションに頼らないブラックコメディーで面白い。経済格差という社会問題。息もつかせない怒濤(どとう)の展開。すみずみまで計算しつくされた見事な映画だった。
前回のパルムドールを獲った『万引き家族』にも似た雰囲気の映画で、埋まらない経済格差というのは先進諸国で問題になっているようだ。とくに最近の韓国での雇用の悪化はよく聞くところだ。この映画が生まれる背景は十分にあったのだろう。
また映画が進むにつれて、ブラックユーモアだけでは終わらない刺激的な展開で驚かされた。そしてこの「刺激」について、いくつか思い出すものがあった。
昨年、映画『ジョーカー』が話題になったときに、他のバットマンの映画シリーズもいくらか見てみた。最初の一本は何十年も前の作品で、勧善懲悪の子供向けコメディーだ。これがやがて現代にも通用する作品として、シリーズを追うごとに少しずつ変わっていく。悪役を魅力的に描き、それを名優が演じるようになる。やがては主人公のバットマンが、悪との戦いは本当に正しいのか、頭を抱えて悩むようになる。
映画を見ている大人たちが「世の中には正義なんてない」ということに気付いているからだろう。むしろ正義を自称する人間に限って、争いを起こしたがる。そんなヒーローにはもう、人々は共感できないのかもしれない。そんな中で撮られたのが、悪役を主人公に据えてその生い立ちを語った『ジョーカー』だったのだろう。こちらもずいぶんと刺激的なクライマックスを迎える。