かつて「兜町の風雲児」と呼ばれ、昭和のバブル前夜を駆け抜けた中江滋樹氏(66)が2月20日、東京都葛飾区の自宅アパートの火災で、焼け跡から変わり果てた姿で見つかった。希代の相場師としてマネーゲームで隆盛を誇り、投資家から多額の金銭をだまし取った「投資ジャーナル事件」の首謀者として警視庁に逮捕されたことでも知られるが、近年は経済的に困窮、体調にも不安を抱えていたという。(千葉元)
華々しい人脈
関係者らによると、中江氏は昭和29年1月、滋賀県で生まれた。高校卒業後に名古屋市内で株式情報のリポート販売のアルバイトに就いたことで、投資の世界に入った。その後、京都市で投資コンサルタント業を開業。会社規模を拡大し53年、東京・兜町に「投資ジャーナル」を立ち上げた。
2割のもうけを10回続ければ元手が2倍になるという「ツーバイツー理論」を掲げ、会員と巨額のカネを集めた。当時の金満ぶりから「体を揺らせば大金が出る」とまでいわれた。
財力にものをいわせた人脈は財界にとどまらず、都心の高級ホテルなどで開かれる豪華なパーティーでの同席者には、田中角栄氏をはじめとする政界人も名を連ねていたという。
中江氏と交流があったノンフィクション作家の森功さんは「上京後、知り合ったテレビ局の幹部らと赤坂の料亭に入り浸っていた。そうそうたる顔ぶれの人脈は、このときに培った」と振り返る。
人気アイドルとの親密な様子が報道されたことで世間も騒がせたことも。しかし、森さんは「当時、彼が実力の面で魅力的だったのは確かだが、自分を実態より大きく見せようとする人でもあった」とも語る。
逮捕、死亡説も
危うさと隣り合わせの過激な手法は裏目に出た。「株を買う資金を担保の10倍まで融資する」とうたって全国の投資家から約584億円を集めるも、資金を返しきれず、60年に警視庁に詐欺容疑で逮捕される。平成元年に詐欺罪で懲役6年の実刑判決を受け、4年に仮出所した後は麻布十番に事務所を構えて仕手戦に舞い戻ったが、かつての勢いは失われていた。