政府は農林水産物・食品の輸出額を令和7年に2兆円、12年に5兆円に引き上げる新たな目標を決めた。人口減少や少子高齢化の急速な進展で国内市場が縮小していく中、「(海)外にしっかりとした市場を確保していかないと、日本の生産基盤を守れない」(江藤拓農林水産相)という考えが背景にあるが、日本の農林水産業へのプラス効果を一段と高める「質」の向上など課題は少なくない。
政府は4月、司令塔組織となる「農林水産物・食品輸出本部」を農水省に設ける。各省庁の「縦割りを排除」(江藤氏)し、輸出拡大に横断的に取り組む。
ただ現状では、輸出額を国・地域別でみると、地理的に近く経済成長を続けるアジア向けが約7割を占める。“アジア一本足打法”といっても過言ではない。
足元でアジア経済は新型コロナウイルスの感染拡大による打撃を受けている。「香港や中国、韓国など、政治情勢次第で(輸出が)どうなるか分からない国・地域が多い」(自民党議員)との指摘もある。中長期では、輸出先の多角化を図りアジアへの過度な依存度を下げる必要がある。
輸出額の増大もさることながら、輸出の「質」の向上も同時に取り組むべき課題だ。農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員によると、令和元年の農産物の輸出額は平成26年から2308億円増えたものの、増加分の65%に当たる1508億円は加工食品が占めると分析。「加工食品の原材料は海外から輸入した農産物に依存していることが多く、日本の農業への寄与は大きくない」と指摘する。
全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長は6日の記者会見で「これから日本の人口や需要が減る中、輸出は(成長の)大きな鍵になる」としつつ、「輸出額が増大したものがどれだけ(日本の)農家の所得向上に貢献しているかが気になる」と述べた。