新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大が、国内外の人の往来や製品・部品などのサプライチェーン(供給網)を冷え込ませ始めている。生産の減少と消費の停滞が同時発生し、“茫然(ぼうぜん)自失”に陥った実体経済の悪化が株安や円高を誘発。日本経済を取り巻く“負の連鎖”が形成されつつあり、経済界からは「官民が全力を挙げてねじ伏せる必要がある」(経団連の中西宏明会長)との声も上がる。
「設備にも生産能力にも問題がないのに、減産しなくてはいけない状況が生まれている。困った」
国内の自動車部品業界関係者は新型コロナの広がりの影響に頭を抱える。日産自動車をはじめ大手自動車メーカーは中国からの部品供給停滞を受けて国内工場の稼働日を減らしているが、この余波が部品工場にも及んでいるのだ。数万点ある部品の1つがないだけでも自動車は完成せず、部品の供給量をサプライチェーン全体で調整しなければならないという。
パナソニックも9日、中国からの部品調達の遅れから、3月下旬に予定していたロボット掃除機「RULO(ルーロ)」の最新モデルの発売日を4月20日に延期すると発表。システムキッチンやトイレなど一部の住宅関連設備の新規受注も停止している。
一方、消費の現場も厳しい状況だ。大手百貨店4社の2月の売上高(既存店ベース、速報値)は、全社とも前年実績を大幅に下回った。中国人ら訪日外国人の来店が減少し、免税売上高が大幅に目減りしている。
先行きも新型コロナによる景況感の悪化が、国内客の消費に影響を与える可能性がある。三越伊勢丹ホールディングスの担当者は「外出を控えよう、買い物は今じゃないといった空気感が怖い」とこぼす。国土交通省によると、JR山手線で今月2~4日の朝の混雑が在宅勤務や時差出勤を呼び掛ける前に比べ20%以上減少したという。
加えて懸念されるのは足元の円高だ。三菱ケミカルホールディングスは、1円円高が進むと本業のもうけを示すコア営業利益が16億円目減りするとしている。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は9日、地方の中堅・中小企業では、(1)人手不足、(2)売上高を確保するためのオペレーションができない、(3)在宅勤務やテレワークで残業代がなくなったことや給与補填(ほてん)がないことで、(4)消費が縮小するという「四重苦の状況にある」と述べた。