海賊版サイトからの漫画作品などのダウンロード(DL)の違法化に向けた著作権法改正案が、国会に提出された。規制対象を著作物全般に広げた昨年の改正案は、インターネットでの情報収集を萎縮させるとの懸念が続出して頓挫した。現代人の生活にネットは欠かせない。今回案ではさまざまな配慮が行われているが、不透明な点も残る。不安解消に向け、国会でさらなる議論が不可欠だ。
「創作活動への影響に配慮しつつ、海賊版対策としての効果もあるバランスが取れた内容。一歩前進と受け止めたい」
漫画などの作品が無断でネットに掲載されたと知りつつ、ダウンロードする行為を違法とする著作権法改正案について、日本漫画家協会の千葉洋嗣事務局長はこう述べた。
国内最大規模とされた海賊版サイト「漫画村」による出版物の被害は約3000億円に上るとの試算がある。漫画村が閉鎖された後も、多くの海賊版サイトが存在し、被害は今も深刻とされる。
対策として、昨年に文化庁から示されたのが、現行法では音楽と映像に限定されている対象範囲を、漫画や雑誌、論文なども含めた著作物全般に広げる著作権法改正案だった。
ところが、パソコンやスマートフォンで閲覧した画面を保存する「スクリーンショット」(スクショ)で、画面の一部に無断掲載された画像が偶然写り込むことも規制対象となる恐れがあり、懸念の声が続出。被害当事者である漫画界からも「創作の萎縮を招く懸念が大きい」といった反対もあり、国会提出が見送られた。
このため、今回の案が閣議決定される過程では、文化庁の有識者検討会などで議論が行われ、ネット利用者の不安を解消するための措置が講じられた。
規制対象外となる軽微な例として、スクショへの付随的な写り込みや、数十ページの漫画の1コマ~数コマのダウンロードなどが示された。二次創作やパロディーをダウンロードすることも違法ではないとされた。
こうしたケース以外にも、ネットでは悪質とはいえない情報収集が行われる可能性が指摘されている。このため、「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」についても、規制対象に含まれないこととなった。具体的な事例として、文化庁は、詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(著作物)が被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載され、自分や家族を守る目的でダウンロードすること-など3つを挙げている。
ただ、日々進化しているネットの世界では、想像もつかないような使い方がされていたり、今後出てきたりする可能性もある。規制対象外とされた「特別な事情」の具体例が極端との意見もあり、具体的にどこまでの行為が違法とならないのか不透明な部分が残る。万人が使うネット時代だからこそ、国会では利用者視点からの徹底した議論が必要だ。(森本昌彦)