【北京=三塚聖平】新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)により、中国では映画産業が苦境に陥っている。映画館は、感染リスクへの警戒から長期間休業が続き、3月下旬には営業再開を進めようとする動きに当局が待ったを掛けた。新作映画の撮影も止まるなど、大きな影響を受けている業界の一つとなっている。
「国の規定に基づき、皆さんの安全のためしばらく営業を停止します」
北京市中心部のショッピングモールにある映画館は、入り口にこのような張り紙があり中には人の気配がない。中国各地では感染拡大が深刻だった1月下旬から映画館の休業が続く。
書き入れ時の春節(旧正月)の連休には、公開予定だった新作映画の上映が軒並み延期された。同期間中だけでも映画産業の損失は70億元(約1100億円)に達するとみられる。
その後、中国国内での感染状況が落ち着く中で、3月中旬には新疆(しんきょう)ウイグル自治区など一部地域で映画館の再開が始まった。5月頭の労働節(メーデー)の連休に向けて本格再開が期待されていたが、中国メディアによると映画業界を所管する国家映画局は3月27日に緊急通達を出し、全映画館は営業停止を続け、再開済みのものは再び休業するよう求めた。感染の再流行を警戒したとみられる。
中国の映画プロデューサーは「映画館の休業が続いており状況は非常に厳しい。映画の撮影も延期を余儀なくされている」と業界全体の苦境を説明する。
中国の映画業界は成長を続けてきており、2019年の興行収入は前年比5・4%増の約642億元(約9800億円)だった。110億ドル(1兆2千億円)規模で推移している北米市場の興行収入に迫っていたが、今後の市場動向にも影響を与えるとみられる。