【ソウル=名村隆寛】韓国総選挙で保守系の最大野党「未来統合党」は、左派系与党「共に民主党」の躍進を許した。選挙戦では文在寅(ムン・ジェイン)政権や与党の支持勢力である左派からの激しい攻撃を受けた末の敗北に、保守層の危機感は絶望感へと変わった。
「共に民主党」から出馬した李洛淵(イ・ナギョン)前首相は15日深夜、ソウル市鍾路(チョンノ)の選挙事務所で事実上の勝利宣言をした。李氏が圧勝した相手は「未来統合党」の代表である黄教安(ファン・ギョアン)元首相。李氏は「最善を尽くされた黄教安候補の労苦に敬意を表する」と黄氏をねぎらった。
「韓国の未来は絶望的だ」。黄氏は前日の14日、ソウルでの最後の街頭演説で与党優勢を危惧し、ぬかずいて支持を訴えた。まるで敗北宣言のようだった。
朴槿恵(パク・クネ)前政権の後半に首相を、朴氏の弾劾訴追後の約半年間は大統領代行まで務めた黄氏。今年2月には自由韓国党、新しい保守党など3党合同で未来統合党が発足した。その代表である黄氏の選挙運動最後の発言には、保守派が抱く切実な危機感が表れていた。
未来統合党など保守派は、親族らの不正疑惑で昨年10月に辞任したチョ・グク前法相(業務妨害などの罪で在宅起訴)の選挙介入疑惑で文政権を追及していた。ところが、新型コロナウイルス対策で文政権の評価が上がり、チョ・グク問題は外に置かれたも同然となった。
そんな中、与党など左派勢力は露骨に未来統合党への攻撃を展開した。「安倍政権を擁護し、日本に何の批判もできない未来統合党」「未来統合党は土着倭寇だ」と罵倒した上に、黄氏を含む競合選挙区の議員複数を「親日派」と批判。黄氏らは市民団体から「落選運動」の対象にされた。
選挙終盤に、未来統合党の候補が2014年の旅客船セウォル号沈没事故の遺族らを誹謗(ひぼう)する失言をした。同事故への揶揄(やゆ)は韓国社会でタブー視され、与党勢力から猛非難を受けた。
野党敗北の原因は反政府・反与党で一体化できなかったためとの指摘もある。選挙では未来統合党以外にも保守政党が乱立。保守派は文政権を脅かすまでに結束できなかった。