新型コロナウイルスの感染拡大による経済環境の悪化に関連し、返済期限が定められていない融資手法「永久劣後ローン」を活用すべきだとの声が出ている。中小企業経営に詳しい立教大学の山口義行名誉教授は産経新聞の取材に対し、民間金融機関が中小企業向けに永久劣後ローンを実行し、その債権を国や日銀が買い取る仕組みを提案した。感染拡大で事業継続が困難になっている中小企業の財務基盤を強化し、事業継続を実現する狙いだ。
永久劣後ローンの金利は通常の融資よりも高いが、元本返済期限がないため、借り手は長期間にわたって金利だけを支払うことになる。山口氏は現在の新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済混乱について、「全世界同時に経済活動が止まり、かつ収束の見通しが見えないなかで、多くの企業で資金繰りが悪化し、資本の欠損を招いている」と指摘。このままでは中小企業のメーンバンクである地域金融機関の経営にも悪影響が及ぶと指摘した。
また現在の経済状況について「人と人が会えないことによる経験したことがない不況」と述べ、平成初期のバブル経済崩壊、平成20年のリーマンショックと質的に違うことを強調。金融機関が保有する永久劣後ローン債権を国や日銀が買い取ることも想定すべきだとした。
一方、永久劣後ローンの活用には企業に対する「安易な延命措置」との批判が出ることも予想される。これに関して山口氏は融資対象には「経営破綻により、地域の雇用や経済に大きな影響を及ぼす可能性があるところ」などの条件をつける考えを示した。モラルハザード(倫理の欠如)を防ぐためにも「地域金融機関と長くつきあいがあり、(金融機関が)財務状況を把握していることが前提」としている。
同様の永久劣後ローンは、三井住友信託銀行の高橋温名誉顧問も提案している。
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永久劣後ローン 元本の返済順位が他の債権よりも低く、かつ返済期間が永久であるローン。議決権のない株式の発行による資本調達に近い性格を持ち、借り手にとっては自己資本の増強に役立つ。一方、借り手が自己破産するなどした場合、返済される見込みは極めて低く、貸し手にとってはリスクが大きい。そのため他の融資商品よりも貸出金利が高い。平成初期のバブル崩壊後、不良債権の処理に苦しんだ銀行などへの公的資金投入の際にも、永久劣後ローンが活用された。
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やまぐち・よしゆき
立教大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。平成5年同学部助教授、13年に教授。29年に名誉教授。68歳。名古屋市出身。