たったひとつの音で森羅万象を表現し、魂に響かせる「一音成仏」を求め続けてきた。ロックをはじめ異なるジャンルの音楽家との共演、後進の育成など、意欲的な活動を展開する中でもたらされた吉報に、「虚無僧が現実世界と一線を画して吹いていたのが尺八。その世界に光を当ててもらった」と笑顔をみせる。
東京都国立市生まれ。幼いころから音楽に親しみ、大学進学後に尺八と出合った。「メロディー、リズム、ハーモニーを重視する西洋音楽とは異なる世界に魅せられた」と振り返る。
尺八琴古(きんこ)流の佐々木操風氏に師事し、異なる流派の奏法も習得。オーケストラとの共演で尺八協奏曲の初演も務めた。「やってきたことが無駄になることはない。若い方は挑戦する勇気を持ってほしい」と話す。
コロナ禍で公演もままならないが、インターネットでの個人レッスンを願う若者は後を絶たない。「日本で確立した尺八の正しい歴史を伝えながら、表現の幅をさらに広げていきたい」と研鑽(けんさん)を誓った。(石井那納子)