新型コロナウイルスの感染拡大による医療機関での消毒液不足解消に、酒造各社が名乗りを上げている。「アルコールを扱う会社としてできることを」と考え、サントリーホールディングスや宝酒造といった大手に加え、日本一の酒どころ・灘五郷(兵庫県)の老舗酒造会社などが相次ぎ手指の消毒に代替できる高濃度アルコールの供給を発表した。厚生労働省や国税庁が規制緩和を進めたこともあり、取り組みは各地に広がっている。(岡本祐大)
灘五郷にある白鶴酒造(神戸市)は4月21日、酒造りの原料として仕入れていたアルコール度数95度の醸造用アルコールを77度に薄め、消毒液に代替できる製品として供給すると発表。同23日にはその第1弾として約400リットルを神戸市に提供し、5月までに5千リットル分の製造準備を整える。
寛保3(1743)年創業の同社だが、消毒用の製品づくりは初めて。「酒造会社としてできることはないか」と検討し、関係機関と協議して供給開始に取り付けた。容器詰めやラベルの貼り付けは手作業で行うため、「もうけは度外視」という。同じ灘五郷の日本盛(兵庫県西宮市)も同市への供給を始める。
大手ではサントリーが大阪工場(大阪市)のスピリッツなどの製造設備を使って消毒用アルコールを生産し、医療機関に無償提供する。米国でも傘下のビームサントリーが消毒液を生産し、地元の医療関係者らに提供している。宝酒造は焼酎を製造する設備を使って18リットル入り製品を月5千本分供給する準備を整えた。
経済産業省によると、新型コロナの感染拡大で消毒液の主要メーカーが態勢を整え、今年2月には昨年の1カ月平均の1・8倍、3月は2・2倍まで増産。花王は国内工場の稼働を増やして通常の20倍以上を生産すると発表している。このほかのメーカーも設備増強を進めるが、医療現場をはじめオフィスや家庭での需要がこれを上回っているため、品不足の解消にはまだ時間がかかるのが現状だ。