新型コロナウイルスの影響で、ロシアのプーチン政権が5月9日に予定していた第二次大戦の対ドイツ戦勝式典を延期した。大規模な軍事パレードを伴う国威発揚行事であり、「対日戦勝記念日」とする9月3日に同様の式典を行う案が浮上している。
ロシアは「第二次大戦の結果だ」として北方領土不法占拠の正当化を図っており、看過できない動きだ。安倍晋三首相は対独戦勝行事に招かれていたが、9月実施の場合には、なおさら出席してはならない。
ロシアは「旧ソ連・ロシアは欧州をナチス・ドイツから解放した」と宣伝し、「戦勝国」の立場を国内の結束や国際的地位の向上に利用してきた。だが、ロシアの身勝手な歴史認識には諸外国の反発が強まっている。
注目すべきは欧州議会が昨年9月、第二次大戦勃発80年を機に出した決議だ。決議は、ナチス・ドイツとソ連という2つの全体主義体制が大戦に道を開いたとして戦時中の集団殺戮(さつりく)や、戦後のソ連による東欧支配を非難した。
プーチン大統領はこの決議に猛反発した。「戦勝国」の立場を神聖視し、一切の非を認めない。このようなロシアの態度はアジア方面についても同様である。
2010年には、日本が連合国に対する降伏文書に調印した9月2日を事実上の対日戦勝記念日である「第二次大戦終結の日」に定めた。その上で「ソ連は満州や朝鮮、サハリン(樺太)などを解放し、大戦終結を早めた」と宣伝してきた。
ソ連は大戦末期の1945年8月9日、日ソ中立条約を破って対日参戦し、日本の降伏後も一方的侵攻を続けた。このようなあからさまな侵略行為を「解放戦争」にすり替え、北方領土不法占拠を正当化することは許されない。
中国と共闘するかのような動きもみられる。ロシアは今年4月、「大戦終結の日」を9月3日に変更した。ソ連の対日戦勝記念日が3日だったのに戻した形で、中国の「抗日戦争勝利記念日」と足並みをそろえたとの見方がある。
プーチン氏は7日、大統領就任から20年を迎えたが、最近のウイルス禍やそれに伴う原油安で苦境にある。自らの求心力を高め、かつ北方領土返還を避けるため、歴史戦で対日攻勢を強めてくることに警戒しなければならない。